【背景】精神疾患の発症には、発達段階における周産期のウイルス感染や、出産時の低酸素脳症、周産期や幼若期の育児放棄などの環境的要因が関与していることが報告されている。我々は、発達段階における環境的要因の曝露による情動や認知行動の障害には、プロスタグランジンE2(PGE2)やPGE2-EP1受容体情報伝達系が関与していることを見出している。本研究では、新生仔期マウスへのPGE2­の直接投与が若年期や成体期の情動性・情報処理機能と遺伝子発現に与える影響について行動学的、神経化学的および分子遺伝学的に検討した。
【方法】新生仔期(生後2~6日)にPGE2(10 mg/kg)を投与したマウスの若年期(生後35日)と成体期(生後70日)において社会行動試験(情動性)およびプレパルス抑制試験(情報処理機能)を行った。また、新生仔期PGE2投与による若年期と成体期のマウスにおける神経細胞形態とその関連タンパク質発現、および網羅的遺伝子発現の解析を行った。
【結果】新生仔期にPGE2を投与し、若年期と成体期において社会行動試験とプレパルス抑制試験を行ったところ、若年期ではなく、成体期において社会性と情報処理機能の障害が認められた。これらの行動障害は、PGE2-EP1受容体拮抗薬により緩解された。新生仔期にPGE2を投与すると、成体期において前頭前皮質のスパイン数やグルタミン酸トランスポーター発現が低下していた。一方、網羅的遺伝子発現解析において若年期の前頭前皮質では細胞骨格、成体期では恐怖反応に関連する遺伝子の発現が変化していた。
【結論】新生仔期のPGE2投与は、PGE2-EP1受容体情報伝達系を介して、成体期におけるグルタミン酸神経系の関連タンパク質の発現変化を伴う神経形態と情動性・情報処理機能を障害させることが示唆された。