【背景・目的】これまでに、錐体・桿体を失ったマウスを用いた検討により、睡眠薬によるイソフルラン麻酔の延長作用が明暗サイクルの影響を受けることを報告している(Sugano et al., 2021)。アルビノは、先天的にメラニンを欠乏している個体であり、視覚障害を示すことが知られているが、覚醒・睡眠に及ぼすアルビノの影響はほとんど明らかにされていない。本実験では、C57BL/6Nマウスとそのアルビノ変異体であるB6-albinoマウスを用いて、睡眠薬によるイソフルラン麻酔の延長作用を比較し、別の亜系統であるC57BL/6Jマウスの結果とも比較した。
【方法】マウスの自発運動量は、7-8週齢時にビームセンサー式自発運動量測定装置を用いて測定した。また、9-17週齢時の明期(ZT6)および暗期(ZT12)に、マウスにブロチゾラム(0.75 mg/kg)またはスボレキサント(40 mg/kg)を経口投与し、投与1時間後に4%イソフルランを2分間吸入させ、麻酔ボックスから取り出して正向反射が回復するまでの時間を麻酔時間として計測した。
【結果】B6-albinoマウスの自発運動量は、典型的な夜行性パターンを示し、C57BL/6NマウスおよびC57BL/6Jマウスとの間に違いは認められなかった。ブロチゾラムは、C57BL/6NおよびC57BL/6Jマウスでは明期と暗期の両方で、イソフルラン麻酔を有意に延長し、延長効果は暗期より明期で顕著であった。一方B6-albinoマウスでは、ブロチゾラムは明期において有意な麻酔の延長作用を示さなかった。また、スボレキサントは、C57BL/6Jマウスでは明期と暗期の両方でイソフルラン麻酔を有意に延長したのに対して、C57BL/6NマウスおよびB6-albinoマウスでは明期と暗期のいずれにおいてもイソフルラン麻酔に影響を及ぼさなかった。
【考察】B6-albinoマウスでは、ブロチゾラムによるイソフルラン麻酔の延長作用が明期で減弱しており、明暗刺激を十分に感知できていない可能性が示唆された。一方、スボレキサントによるイソフルラン麻酔の延長効果は、C57BL/6NマウスとB6-albinoマウスの両方で認められず、スボレキサントによる延長作用の有無は、C57BL/6マウスの亜系統差に起因するものと考えられた。