気体メディエーターのH2Sは cystathionine-γ-lyase (CSE) 、cystathionine-β-synthase (CBS) または3-mercaptopyruvate sulfurtransferase (3-MST) によってL-cysteineから生成される。我々は、H2SがCav3.2 T型Ca2+チャネルの機能亢進を介して疼痛または痛覚過敏を誘起することを明らかにしている。また、結腸内腔H2SがCav3.2依存性の結腸痛を誘起すること、butyrate誘起結腸過敏にCav3.2の機能亢進が関与することを報告している。一方、2,4,6-trinitrobenzene sulfonic acid (TNBS) 処置ラットの腸組織ではCBSによるH2S産生が亢進することが報告されている。現在、CSEと3-MSTの選択的阻害薬は利用可能であるが、選択的CBS阻害薬はなく、GABA transaminase阻害薬のaminooxyacetic acid (AOAA) などがCBS阻害薬として研究に使用されている。今回は、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素 (AADC) 阻害薬のbenserazideがCBSを阻害するとの報告に注目して類似薬のCBS阻害活性を評価し、AADCを阻害しないD-carbidopaがCBSを阻害することを見出だした。さらに、TNBS誘起マウス結腸痛へのCBSと Cav3.2の関与を解析し、D-carbidopaと我々が開発した新規T型Ca2+チャネル阻害薬の結腸痛抑制効果を評価した。ラット腎ホモジネート中のCBS活性をH2Sの蛍光プローブ7-azido-4-methylcoumarinを用いて測定し、catecholamine関連化合物のCBS阻害活性を調べたところ、L-carbidopa = D-carbidopa > L-dopa > droxidopaであった。次に、ラット線条体ホモジネートを用いてL-dopaからのdopamine産生をLC-MS/MSにより測定してAADC活性を調べたところ、L-carbidopaはAADCを阻害したがD-carbidopaに阻害活性は見られなかった。マウス結腸内にTNBS 2 mgを投与すると、6日後、結腸伸展過敏および下腹部へのvon Frey filament刺激に対する関連痛覚過敏が認められた。このTNBS誘起結腸痛は、Cav3.2遺伝子欠損マウスでは全く認められず、T型Ca2+チャネル阻害薬KTtp-5 10 mg/kg、AOAA 20 mg/kg、L-またはD-carbidopa 25 mg/kgの腹腔内投与により抑制された。さらに、TNBS処置マウスの結腸組織ではCBS発現量が著しく増加していた。以上より、AADC阻害活性のないD-carbidopa が選択的CBS阻害薬の開発シーズになりうることが明らかとなった。また、TNBS誘起結腸痛にはCBS由来H2S/Cav3.2系が関与し、D-carbidopaを含むCBS阻害薬やKTtp-5を含むT型Ca2+チャネル阻害薬が治療効果を示すことが示唆された。