睡眠障害は、視床下部を中心とした睡眠覚醒中枢における細胞機能のバランスが崩壊することにより生じ、情動障害や生活習慣病あるいは身体合併症など、様々な障害が誘導されることが知られている。しかしながら、睡眠障害下における視床下部の細胞変容機構については未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、睡眠障害による脳内のグリア細胞およびストレス応答性である視床下部室傍核内コルチコトロピン放出ホルモン含有神経 (CRHPVN 神経)の変容機構について解明する目的で、睡眠制限モデルを作製し、視床下部グリア細胞およびCRHPVN 神経における細胞機能に関わる遺伝子の発現解析を行った。睡眠制限マウスは、回転バーを用いた小動物用断眠装置により、マウスの睡眠期である明期の間、1 時間の断眠を 1 時間おきに実施し、計 3 日間睡眠リズムを強制的に崩すことにより作製した。マウスの睡眠パターンの解析は、マウスの頭部に脳波測定用電極を留置し、脳波および筋電図を 24 時間測定した。CD11b 陽性ミクログリアの分取は magnetic-activated cell sorting (MACS) 法に従い行った。CRHPVN 神経特異的な遺伝子発現解析は、CRH-GFPL10a レポーターマウスを作製し、translating ribosome affinity purification (TRAP) 法に従い、視床下部室傍核を含む脳領域より免疫沈降によりmRNAを分取し、遺伝子発現解析を行った。はじめに、睡眠制限マウスの脳波解析を行ったところ、睡眠制限前と比較して、覚醒時間の有意な増加ならびに non-REM 睡眠時間の有意な減少が認められた。このような条件下、神経炎症の有無を確認する目的で、視床下部ミクログリアにおける各種サイトカインおよび細胞代謝変動関連遺伝子の発現変動について解析を行ったところ、断眠処置ではこれらの遺伝子の発現変動は認められなかった。次に、CRHPVN 神経における神経機能の変化を確認する目的で遺伝子発現解析を行ったところ、睡眠制限下のCRHPVN 神経において、時計遺伝子の発現変化は認められなかったものの、細胞活動に伴う最初期遺伝子の発現増加が認められた。以上、本研究により、睡眠障害下ではストレス応答に関わる CRHPVN 神経の活性化変容が引き起こされているが、神経炎症様症状は誘導されていない可能性が示唆された。睡眠障害による CRHPVN 神経の活性化は、全身性ストレス症状を誘導する可能性が考えられる。