【目的】緑内障及び糖尿病時の網膜神経変性において、グルタミン酸興奮毒性が一部関与していることが示唆されている。実験動物の硝子体内に過剰量の N-methyl-D-aspartic acid (NMDA) を投与すると、速やかに網膜神経傷害が生じる。フィブラート系脂質異常症治療薬である fenofibrate の代謝活性体 fenofibric acid 及び pemafibrate が網膜におけるグルタミン酸興奮毒性に対して抑制効果を示すことが報告されているが、詳細な機序は不明である。本研究では、マウス NMDA 誘発網膜神経傷害モデルにおける fenofibric acid 及び pemafibrate の作用とその機序について検討を行った。
【方法】7~8 週齢の ICR 雄性マウスを用いた。硝子体内に NMDA (10 nmol) と fenofibric acid (100 nmol)、pemafibrate (10 nmol) 又はそれらの溶媒である dimethyl sulfoxide (DMSO) との混合液を投与した。また、NMDA (10 nmol) と fenofibric acid (100 nmol) の混合液に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体 α (PPARα) 拮抗薬である GW6471 (0.1 nmol)、MEK 阻害薬である U0126 (0.2 nmol) 又は DMSO を混合して投与する検討も行った。薬物投与 7 日後に眼球を摘出し、網膜断面の薄切切片を作製して Hematoxylin & Eosin (HE) 染色を行った後、視神経節細胞層に存在する細胞数及び内網状層厚を測定した。
【結果】NMDA は視神経節細胞層に存在する細胞の数及び内網状層の厚みを減少させた。NMDA による傷害は fenofibric acid 又は pemafibrate を同時に投与することにより抑制された。Fenofibric acid の保護効果は PPARα 拮抗薬である GW6471 により消失し、MEK 阻害薬である U0126 により有意に抑制された。
【考察】本実験成績は、マウス NMDA 誘発網膜神経傷害に対して、フィブラート系脂質異常症治療薬は PPARα を活性化することにより保護効果を示すこと、そしてその保護効果の一部には MEK/ERK 経路の活性化が関与していることを示唆している。