【背景・目的】一酸化窒素(NO)は生体内のシグナル伝達物質として働き,生理的・ストレス条件下において様々な機能調節を担っている.NOの作用機序の一つとして,タンパク質システインチオール基をS-ニトロシル化(SNO化)し,様々なタンパク質の機能を制御することが報告されている.当研究室では,タンパク質がSNO化を受け,酵素活性や機能が変化することを明らかにしてきた.また,酸化ストレスや熱ショックなどのストレスに応答して,液-液相分離により細胞質で一過性に形成するストレス顆粒(SG)は,細胞保護作用を示すことが知られている.その一方で,分解されない異常なSGを介した凝集体形成が神経変性疾患の発症に関与することが示唆されており,病態下のSG動態に関する多くは未解明である.そこで,本研究ではG3BP1のSNO化を介したSG動態の変化及び,NO誘発性SGの細胞死への影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞,HeLa細胞にNO供与体を処理した.G3BP1のSNO化形成はBiotin-switch assayにより評価した.また,SGはG3BP1の蛍光免疫染色により解析した.位相差観察による形態変化とHoechst染色での核凝縮により細胞死を評価した.
【結果・考察】G3BP1のSNO化の有無を検証したところ,NO処理濃度依存的にSNO化が認められ,時間とともにそのレベルが低下することがわかった.また,SNO化が観察された条件下で,NO処理濃度依存的にSG形成が誘導され,G3BP1のCys73がNOの標的であることがわかった.次にG3BP1 C73S過剰発現細胞にNOを処理したところ,G3BP1 WTと比較してSG形成が抑制された.続いて,TDP-43の発現により誘導される細胞死に,NO誘発性のSGが影響を与えるか否か検証した.その結果,比較的低濃度のNO処理により,G3BP1 WTとTDP-43を共発現させた細胞において,TDP-43のSG内局在が増加し,細胞死が抑制されることが明らかとなった.以上より,G3BP1はSNO化修飾を介してSG形成を促進し,SG内にTDP-43を取り込むことで,細胞毒性を軽減していることが示唆された.