大型中性アミノ酸を主な輸送基質とするアミノ酸トランスポーターLAT1(SLC7A5) は、さまざまな腫瘍組織において発現が亢進している。LAT1選択的阻害剤 nanvuranlat (Nanv; JPH203) は、アミノ酸取り込みの遮断によってがん細胞の成長と増殖を抑制する、新規作用機序の抗悪性腫瘍薬として開発が進められてきた。先行研究では、がん細胞をNanv で処理した際に G0/G1 期の細胞が増加することが報告されているが、その詳細なメカニズムは不明であった。そこで本研究では、Nanvが細胞周期に与える影響と、その背景にある分子機構の解明を試みた。 膵臓がんMIA PaCa-2細胞を低血清培地中にて培養し、G0/G1期の細胞周期チェックポイントであるRestriction pointで同期させた。その後、通常濃度の血清存在下で培養を開始し、細胞周期の進行を誘導したところ、NanvがG0/G1期からS期への移行を著明に抑制することを見出した。Nanv存在下ではp38 MAPKが持続的に活性化しており、サイクリン D1 のリン酸化依存的プロテアソーム分解経路の亢進によって、S期への移行に重要なサイクリンD1の蓄積が抑制されていた。プロテアソーム阻害薬はサイクリンD1の量を回復させ、Nanvによる細胞周期の停止を解除した。p38 MAPK の4種類のアイソフォームについて特異的ノックダウンを実施したところ、主にαアイソフォームがサイクリンD1の下方制御に寄与していることが明らかになった。NanvによるG0/G1期からS期への移行の阻害、p38 MAPKαアイソフォームの活性化とサイクリンD1の下方制御は、他の膵臓がん細胞株であるAsPC-1やPANC-1においても確認された。また、免疫不全マウスで作製したMIA PaCa-2細胞ゼノグラフト腫瘍モデルにNanvを投与したところ、p38 MAPK のリン酸化が増加し、サイクリン D1 の量が減少した。 以上より、NanvがG0/G1 期からS期への移行における細胞周期停止作用を有することが示された。本研究の成果は、Nanvの抗腫瘍効果の基盤となる薬理作用の解明に貢献するとともに、Restriction point下流に位置するアミノ酸依存的細胞周期チェックポイントの分子機構についても重要な知見を与えるものである。