【背景・目的】大腸がんは日本における年間死亡数が2番目に多いがん疾患であり、高齢化の進行に伴いその罹患者数および死亡者数の増加が予想される。そのため、大腸がんの予防や治療を見据えたがん発生・悪性化メカニズムの解明は重要であると考えられる。大腸がん組織では、炎症性メディエーターであるプロスタグランジンE2 (PGE2) の生産が亢進している。PGE2は初期大腸がんに高発現しているEP4受容体に作用し、その下流の細胞内シグナルが大腸がんの発生や悪性化を促進していると考えられている。しかし、具体的な因子については十分に明らかになっていない。本研究では、大腸がん細胞における遺伝子応答の網羅的解析とリアルワールドデータ解析を組み合わせることで、治療標的となり得る大腸がん原因因子の探索とその誘導メカニズムの解明を試みた。
【方法】ヒト大腸がんHCA-7細胞をPGE2で刺激した際の遺伝子応答を、RNAシーケンスを用いて網羅的に解析した。さらに、がんゲノム・ビッグデータを用い、実際のヒト大腸がんにおいて発現が亢進している因子を抽出した。HCA-7細胞のEP4プロスタノイド受容体をPGE2で刺激し、同定された遺伝子のタンパク質発現量を評価した。さらに、細胞内シグナルの阻害薬を用いることで、EP4受容体下流の誘導メカニズムの解明を試みた。
【結果・考察】PGE2で刺激したEP4受容体の応答因子のうち、実際のヒト大腸がんでも発現が亢進している因子として補体抑制因子であるCD55を同定した。HCA-7細胞をPGE2で刺激すると、濃度依存的・時間依存的にCD55のタンパク質発現量が増加した。このPGE2刺激によるCD55の発現はEP4受容体のアンタゴニストによって阻害され、また、Gsタンパク質の阻害薬では抑制されなかった一方で、Giタンパク質の阻害薬で抑制された。以上の結果より、CD55の発現はEP4受容体下流のがん促進因子であり、Giタンパク質を介したシグナルによって制御されている可能性が考えられた。