【背景・目的】
Gs、Gi型タンパク質に共役するEタイププロスタノイド4 (EP4) 受容体は、プロスタグランジンE₂ (PGE₂) 刺激による活性化により過剰発現し、大腸がん増悪につながるシグナル伝達系を亢進させることが報告されている。また、細胞内第3ループ領域 (ICL3) のセリン残基はGsシグナルを介したprotein kinase A (PKA) の活性化によりリン酸化されることも報告されている。そのためEP4受容体シグナル伝達系においてPKAは重要な役割を担うと考え、PKA阻害が細胞に与える影響に着目して研究を行った。
【方法】
ヒトEP4受容体遺伝子を安定的に発現させたHEK293細胞 (HEK-EP4細胞) に対しPKA阻害薬を前処置し、PGE₂処置後の細胞が引き起こす変化を検討した。細胞内アクチン動態の変化についてはファロイジン染色を行い、共焦点顕微鏡にて観察した。
【結果・考察】
HEK-EP4細胞にPKA阻害を行いPGE₂刺激を行うと細胞形態の変化が認められた。細胞形態変化を引き起こしているHEK-EP4細胞の細胞内アクチン動態を検討したところ、アクチンストレスファイバーの形成が認められた。そこで、ICL3領域のセリン残基をアラニンに変異させPGE₂刺激を行うと、変異導入前と比較してより顕著な細胞形態変化、アクチンストレスファイバーの形成が認められた。
以上の結果より、PKAによるICL3領域のセリン残基のリン酸化がアクチンストレスファイバーの形成、それに伴う細胞形態の変化を制御していることが考えられた。また、今回見られた細胞形態の変化は間葉上皮転換様であり、EP4受容体により活性化したPKAによるICL3のセリン残基のリン酸化の変化が、がんの転移に関わる可能性が考えられた。以上の結果から、EP4受容体シグナル系が惹起するPKAによる詳細な制御メカニズムを解明することで、大腸がんの悪性化のメカニズムのみならず新たな治療ターゲットを提案することができると考えている。