虚血性心疾患の治療薬として頻用されている一酸化窒素(NO)供与薬は生体内でNOを発生させ、還元型(ヘム鉄がFe2+)可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)の酵素活性を上昇させる。一方、近年開発が進められているsGC活性化薬はNO非依存的に酸化型(ヘム鉄がFe3+)/アポ(ヘムが脱離)のsGCを活性化するという特徴を有している。NO供与薬の血管弛緩作用は静脈系で強いことが知られているが、sGC活性化薬の作用に動静脈差が存在するのか否かは不明である。本研究では、摘出ブタ冠動脈および冠静脈を用いて、この点について検証した。sGC活性化薬であるBAY 60-2770(1 pM–0.1 µM)は冠動脈および冠静脈のいずれにおいても濃度依存的な弛緩を誘発したが、その作用は冠静脈よりも冠動脈で強かった。一方、NO供与薬であるsodium nitroprusside(SNP、1 nM–0.1 mM)も濃度依存的な弛緩を誘発したが、その作用は冠動脈よりも冠静脈で強かった。なお、プロテインキナーゼG活性化薬である8-Br-cGMP(1 µM–0.3 mM)の反応性には冠動脈と冠静脈間で差はなかった。BAY 60-2770による弛緩作用はヘム鉄酸化薬であるODQ(10 µM)存在下では増強し、冠動脈と冠静脈間で認められた反応性の差は消失した。また、SNPによる弛緩作用は冠動脈および冠静脈のいずれにおいてもODQ存在下では減弱し、両者間の反応性の差はなくなった。NO合成酵素阻害薬であるNω-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME、0.1 mM)は冠動脈と冠静脈間におけるBAY 60-2770およびSNPによる弛緩反応の不均一性を解消しなかった。以上の結果から、sGC活性化薬の血管弛緩作用はNO供与薬とは対照的に動脈系で強いことが明らかとなった。これは動脈系が静脈系よりも酸化型/アポsGCを多く発現することに起因するのかもしれない。なお、NOにはsGCのヘム鉄を酸化する作用があり、また、血管内皮から恒常的に分泌されるNO量は静脈系よりも動脈系で多いことが知られているが、この分泌量の違いが動脈系で酸化型/アポsGCの発現が多いことの一因とはならないようである。