非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコールの消費量に関係なく、肝臓に脂質が蓄積する肝疾患である。約25 %と高い有病率を示し、肝硬変・肝癌のリスクを高めるが、根本的な治療法は未だ確立されていない。近年、NAFLDに対して、硫化水素が保護効果を示すことが報告された。硫化水素は有毒物質であるが、生体内でも微量に産生され、組織保護効果を示す。D体アミノ酸であるD-cysteineはD-amino acid oxidase(DAO)で代謝され、硫化水素が産生される。DAOは小脳・肝臓・腎臓に選択的に発現し、D-cysteineはこれら臓器選択的な硫化水素ドナーとして働くと想定される。我々は最近、D-cysteineが脊髄小脳失調症発症を抑制することを解明した。以上の背景から、D-cysteineが肝臓での硫化水素産生を介してNAFLDへの保護的効果を示すと想定し、本研究ではNAFLDモデル細胞及びマウスに対するD-cysteineの効果を解析した。
NAFLDモデル細胞として、ヒト肝癌細胞株であるHepG2細胞へのパルミチン酸処置を用いた。NAFLDモデル細胞では活性酸素種(ROS)の増大が観察され、D-CysteineはこのROS増大を有意に抑制した。この抑制効果はDAO阻害薬の共処置により減弱したことから、D-cysteineはDAOを介した硫化水素産生により、NAFLDモデル細胞におけるROS産生を抑制することが示唆された。
続いて、NAFLDモデルマウスでの解析を行った。マウスはヒトと異なり肝臓でDAOが発現していないため、ウイルスベクターを用いた肝臓選択的遺伝子導入により、肝臓DAO発現マウスを作製した。このマウスにメチオニン減量コリン欠乏高脂肪食(HFLMCD)を摂取させることでNAFLDモデルマウスとした。HFLMCD摂取開始と同時に生理食塩水もしくはD-cysteineを連日経口投与した。生理食塩水投与NAFLDモデルマウスでは肝障害マーカーである血中AST、ALTの上昇が観察されたが、D-cysteine慢投与はその上昇を有意に抑制した。肝臓の組織学的解析の結果、NAFLDモデルマウスにおける脂肪滴蓄積がD-cysteine投与により有意に軽減した。以上の結果から、D-cysteineはNAFLDの病状進行を抑制する効果を示すことが明らかとなった。