代表的な歯周病菌であるジンジバリス菌の感染は、アルツハイマー病の増悪因子であることが近年の臨床研究から明らかとなっており、私たちは、アルツハイマー病の原因は、感染症を発端とした脳炎症であると仮説を立て検証している。そのメカニズムとしては、(1)歯周組織から全身循環系に入ったジンジバリス菌やその病原性因子が脳実質に侵入して脳炎症を惹起することや、(2)唾液と共に飲み込まれたジンジバリス菌やその病原性因子が腸内細菌叢を攪乱させ、さらに腸のバリア機能が破綻した結果、漏れ出した腸内細菌やその代謝産物によって脳炎症が惹起されることが想定されている。このためには、ジンジバリス菌または、その病原性因子が血液脳関門や腸上皮バリアを破綻させる可能性が考えられる。私たちはその解明に取り組んだ。
まず、ジンジバリス菌の培養上清をヒト脳血管内皮細胞株(hCMEC/D3細胞)に添加すると、密着結合構成タンパク質であるZO-1及びオクルディンの減少を伴った細胞層の透過性の上昇が起こり、その効果はジンジバリス菌が産生分泌するプロテアーゼの「ジンジパイン」に依存することがわかった。さらに、ジンジパインが直接ZO-1やオクルディンの細胞内領域を分解することがわかった。そこで、ジンジパインが細胞内に入ってこれらの分子を分解すると予想し、ジンジバリス菌が分泌するouter membrane vesicles (OMVs)に着目した。OMVはグラム陰性細菌が外膜から切り出して分泌する小胞であり、脂溶性が高く、ジンジバリス菌のOMVにはジンジパインも結合していることから、そのキャリアとして働いていると考えられる。免疫組織学的解析から、ジンジパインの結合したOMVが脳血管内皮細胞内に侵入できることが明らかとなり、ジンジパインはOMVと共に脳血管内皮細胞内に入り込み、細胞質側からZO-1やオクルディンを分解することで血液脳関門を破壊すると考えられた。さらなる解析により、ヒト腸上皮細胞株(Caco-2細胞)に対してもジンジパインはOMVを介した同様の仕組みで腸上皮バリアも破綻させることが明らかになった。以上のジンジバリス菌OMVによる脳及び腸バリア破綻の仕組みは、ジンジバリス菌がもたらすアルツハイマー病の増悪に深く関与していると考えられる。