【背景・目的】変形性膝関節症 (OA) は関節の炎症と軟骨基質の分解を示す慢性変性疾患である。根治療法として、人工膝関節置換術が行われるが、施術を受けた約30%の患者において疼痛が遷延化することが示されている。それ故、OAにより疼痛が遷延化する原因の解明が求められている。
ミクログリアは脳内の恒常性維持を担い、活性化により炎症反応を惹起する細胞である。また、様々な慢性疼痛モデルにおいて、ミクログリアが痛みの遷延化に関与することが報告されている。当研究室の過去の報告において、OAモデルマウスでは疼痛と膝関節軟骨の損傷が病態発症の初期から持続的に生じている一方で、海馬ミクログリアの活性化は遅発的に認められることから、疼痛の遷延化に海馬ミクログリアが関連する可能性を示した。そこで本研究では、OAでの疼痛発症に対する海馬ミクログリアの役割について、さらに検討を行った。
【方法】ddY 系雄性マウス (7週齢) の左膝関節腔内にmonoiodoacetate (MIA) (1.0 mg) を投与することでOAモデルを作製した。MIA投与5週後において、ミクログリアを除去するコロニー刺激因子-1受容体阻害薬PLX3397の配合飼料、または通常飼料をそれぞれ7日間自由に摂食させた。また同様に、ミクログリア枯渇剤のclodronate liposome、またはcontrol liposomeをそれぞれ右側海馬へ単回局所投与した。疼痛評価はvon Frey Testを用いて機械的刺激に対する逃避閾値を測定した。ミクログリア活性は各種検討の後に脳凍結切片を作製し、ionized calcium binding molecular 1及びtransmembrane protein 119に対する抗体を用いた免疫組織化学染色法により解析した。
【結果・考察】疼痛に対するミクログリアの関与を検討するためにPLX3397を全身的に処置した結果、海馬ミクログリアが減少し、疼痛も有意に改善された。そこで、海馬ミクログリアの関与を検討するためにclodronate liposomeを海馬局所的に投与した結果、投与5日後において海馬ミクログリアが減少し、疼痛も有意に改善された。以上の結果から、海馬ミクログリアの活性化が疼痛の遷延化に重要な役割を果たすことが示唆された。