【背景】抗がん剤使用で生じる末梢神経障害(PN)は有効な支持療法薬に乏しく、抗がん剤治療を中断させる要因の1つである。重度のPNは抗がん剤治療再開が困難であり、患者の生命予後に悪影響を及ぼすことが指摘されている。我々は、HMG-CoA還元酵素阻害剤(HRI)に神経障害抑制作用があることを見出している。HRIは本来の脂質異常是正作用以外に多様な薬理作用を有するが、抗がん剤誘発性PN抑制のメカニズムについては不明である。Glutathione-s-transpherase(GST)は酸化還元反応に関与するほか、中枢神経系における神経の発生や保護に寄与している。本研究ではHRIのPN抑制機構におけるGSTの関与について検討した。
【方法】C57BL6/J系統マウス(雄性、8週齢)に抗がん剤としてoxaliplatinまたはpaclitaxelを投与しPNモデルマウスを作製した。各HRI(simvastatin, atorvastatin, rosuvastatin)は1日1回反復経口投与した。抗がん剤投与後の冷刺激応答・機械刺激応答変化はacetone testおよびvon Frey testによって評価した。機械的刺激応答におけるGSTの関与はGST阻害剤であるethacrynic acidをHRI投与同日から1日1回7日間反復腹腔内投与し、von Frey testにて評価した。また、Cascade Eyeを用いたパスウェイ解析により、PN発現メカニズムにおけるGST関連因子を網羅的に探索した。
【結果】Oxaliplatinまたはpaclitaxel投与後の冷刺激応答閾値は、各HRIの投与による影響は認められなかった。一方で、抗がん剤投与後の機械的応答閾値はvehicle群と比較して、抗がん剤の累積投与量依存的かつ有意に低下した。さらに、抗がん剤投与と同時または抗がん剤投与7日目からの各HRI反復経口投与は、抗がん剤単独群の機械的刺激応答閾値の低下を有意に改善した。HRI投与による機械的刺激応答閾値改善作用は、7日間のethacrynic acid併用によってoxaliplatinおよびpaclitaxel群いずれにおいても消失した。また、パスウェイ解析によって109のPN原因性遺伝子が抽出され、GSTの下流因子としてIL1BおよびIL13が抽出された。
【考察】HRIによる抗がん剤誘発性PN抑制はGSTを介していることが明らかになった。また、このGSTシグナルには炎症応答に関連するIL1B及びIL13の関与が示唆された。