我々は、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の発症に、核内タンパク質high mobility group box 1 (HMGB1)の細胞外放出が関与すること、またHMGB1を放出する細胞は、抗がん薬の種類によって異なることを明らかにしている。一方、thrombin (TB)は、内皮thrombomodulin (TM) 依存性にHMGB1を分解しCIPN発症に対して抑制的に働くほか、TB受容体PAR1を活性化することで炎症性疼痛を抑制することを報告している。また、外科的な傷害を受けた坐骨神経(SN)では、その周辺局所においてthrombin産生亢進が起こることが他のグループから報告されている。今回は、vincristine (VCR)によるCIPN発症におけるマクロファージ(Mφ)およびSchwann細胞(SC)由来HMGB1の役割とthrombinの影響、さらにSN由来SCにおける凝固因子発現・遊離に及ぼすVCRの効果を検討した。マウスにおいてVCR 0.2 mg/kgを1~2週間反復腹腔内投与することでCIPNが発症し、これは抗HMGB1中和抗体、可溶性TM (TMα)、MφからのHMGB1遊離を抑制するethyl pyruvateあるいはMφ枯渇薬liposomal clodronateにより抑制された。TB受容体PAR1遮断薬vorapaxarはVCRによるCIPN発症に全く影響しなかった。マウスMφ由来RAW264.7細胞および成熟分化させた新生ラットSN由来SCにおいて、VCR はそれぞれ100 nMおよび10 nM以上でHMGB1の細胞外放出を誘起した。VCR刺激SC細胞では、成熟SCマーカーであるmyelin basic protein (MBP)のmRNA発現低下とtissue factor (TF)のmRNA発現増加および細胞外放出が認められたが、第II、VIIおよびX因子のmRNA発現量は変化しなかった。VCR刺激したMφおよびSC細胞の培養上清に放出されたHMGB1は、TB 10-20 U/mLを添加することで4時間後にはほとんど分解された。以上より、VCRによるCIPNの発症には、MφとSCに由来するHMGB1が関与し、VCRに暴露されたSCでは脱分化とともにTFの発現誘導と細胞外放出がおこり、神経周囲で局所的に産生されたTBがHMGB1を分解することでCIPN発症に対して抑制的に働いているのではないかと考えられる。