【背景】慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は肺動脈特異的な閉塞病変により、右心不全に至る難治性疾患である.CTEPHは早期診断による早期治療が生命予後を改善する.しかしながら、本疾患は特異的な自覚症状が存在せず、早期診断が難しいため治療まで時間を要する事も少なくない.そのため、新たな視点に基づく病態の指標が必要とされている.近年、CTEPHの病態形成に炎症が関与している事が示唆されていることから、本研究ではCTEPH症例の血漿を用いて様々な凝固線溶系や免疫、炎症時の生体反応調節を行っているhistidine-rich glycoprotein(HRG)および健常な肺に高発現して炎症を惹起する受容体の可溶型分子種であるsoluble receptor for advanced glycation end-products(sRAGE)について、CTEPHの治療前後の量的変動について検討した.
【方法】岡山医療センター循環器内科で2011年1月以降にバルーン肺動脈形成術が行われたCTEPH患者のうち、平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure:mPAP)が40mmHg以上の重症例で治療後のmPAPが25mmHg未満と顕著に改善した33症例を対象とし、治療前後の血漿中のHRGとsRAGEをELISA法により測定した.さらに、対照として健常者33例についても同様にHRGとsRAGEを測定した.健常者ではHRGは年齢と有意な正の相関を示したことから、HRGにおける健常者とCTEPH症例の解析では全例解析に加えて傾向スコアマッチング法を用いて年齢によるバイアスを調整した解析を行った.一方、sRAGEは年齢および性別と統計学的に有意な関係性が認められなかったため全例で解析を行った.
【結果】健常者に対しCTEPH症例ではHRGが有意に低値を示したが、sRAGEは健常者と比較してCTEPH症例で有意に高値を示した.さらに、治療前と比較して治療後のHRGは有意に上昇し、健常者と同等のレベルとなった.一方、sRAGEも有意に低下し、健常者と同等のレベルとなった.
【考察】重症度の高いCTEPH患者は、健常者と比較してHRGは低値を示しsRAGEは高値を示すこと、さらに治療後の顕著なmPAPの改善により両因子とも健常者と同じレベルになることが明らかとなった.本研究成果より、HRGとsRAGEは重症度の高いCTEPHの治療により変動する血漿中の分子である可能性が示唆された.