【背景】喫煙は動脈硬化や虚血性心疾患などの循環器疾患の主要な危険因子である。その原因の1つとして血管内皮障害などの間接的影響が指摘されている。しかし、喫煙物質が心筋細胞に及ぼす直接的な影響やその細胞内機序については不明な点が多い。本研究では、CSEが心筋細胞の収縮機能や細胞内Ca2+動態、ミトコンドリア機能に及ぼす影響を、ラット由来の培養または急性単離心室筋細胞およびヒトiPSC由来心筋細胞を用いて検討した。
【方法】CSEは市販タバコ(hi-lite)より調整したものを使用した。培養心筋細胞は生後1日齢のSprague-Dawleyラット心室筋より単離し、3日後に自動拍動することを確認した。急性単離心室筋細胞は7-9週齢オスラットより単離した。培養心筋細胞の生存率はMTSアッセイおよびカルセイン蛍光観察により測定した。また培養心筋細胞の自動拍動数および急性単離心筋細胞の収縮率、細胞内Ca2+動態はCell Motion Imaging Systemによって解析した。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用いて、ミトコンドリア由来活性酸素種(ROS)産生、ミトコンドリア膜電位とミトコンドリア膜遷移孔の開口、シトクロムc局在を蛍光観察した。
【結果】0.1%以上のCSEは濃度・時間依存的にラット培養心筋細胞の自発拍動速度および生存率を低下させた。また、1% CSEは単離心筋細胞の収縮率を低下させた。同様の収縮不全・拍動不全はヒトiPSC由来心筋細胞でも観察された。一方、1% CSEは細胞内Ca2+トランジェントを増大させ、不規則なCa2+トランジェント発生頻度を増加させた。動態解析の結果から、CSEは筋小胞体(SR)へのCa2+取り込みを促進させ、SRにおけるCa2+の異常な流入/放出を促す可能性が示唆された。またCSEは、細胞内Ca2+動態異常に続発するミトコンドリア障害イベントである、ミトコンドリア由来ROS産生、ミトコンドリア膜電位の低下、ミトコンドリア膜遷移孔の開口を誘導した。さらにCSEは、細胞死誘導シグナルである、ミトコンドリアからのシトクロムc放出を惹起した。
【考察】以上の結果から、CSEは心筋細胞において細胞内Ca2+動態異常を引き起こし、それに伴うミトコンドリア機能異常を介して心筋細胞の収縮機能障害および細胞死をもたらすことが明らかとなった。