新たな腎性貧血治療薬として、低酸素誘導因子(HIF)-プロリン水酸化酵素(PH)阻害薬が開発され、臨床で広く使用されている。数年前に実施された臨床試験では、HIF-PH阻害薬roxadustat(Rox)は造血作用だけではなく、軽度な降圧作用を有することも示された。しかしながら、Roxが血管緊張調節に与える影響については明らかになっていないため、本研究ではこの点についてラット胸部大動脈を用いてマグヌス法により検討した。その結果、Rox(1–100 µM)曝露は血管内皮の有無に関わらず濃度依存的な弛緩作用を引き起こしたが、この作用は内皮除去により明らかに減弱した。加えて、一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬L-NAME(100 µM)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)阻害薬ODQ(10 µM)およびブラジキニンB2受容体阻害薬icatibant(1 µM)の前処置によっても、Rox誘発血管弛緩反応は有意に抑制された。すなわち、Roxは血管内皮に発現するブラジキニンB2受容体を介することで内皮型NO合成酵素を刺激し、次いでNO/sGC経路が活性化される可能性が示唆された。またRoxの血管平滑筋に対する影響を検討したところ、内皮除去標本に対する非選択的カリウムチャネル阻害薬tetraethylammonium(10 mM)の前処置は、Rox誘発血管弛緩反応をほぼ完全に消失させた。このことから、Roxは血管平滑筋のカリウムチャネルを開口させて血管弛緩を引き起こすことも明らかとなった。さらに血管収縮に対するRoxの影響を評価したところ、Rox前処置はphenylephrine(1 nM–1 µM)およびangiotensin Ⅱ(内皮存在下:0.1 µM、内皮除去標本:0.01 µM)誘発血管収縮を血管内皮の有無に関わらず有意に抑制した。なお、他のHIF-PH阻害薬(daprodustat, enarodustatおよびvadadustat)とRoxの血管弛緩効力を比較すると、Rox > vadadustat > enarodustat> daprodustat(ほぼ弛緩せず)の順で強かった。
 以上の結果から、Roxは造血作用だけではなく、血管系においては血管内皮および血管平滑筋の両方に作用することで血管緊張調節に影響を与えることが明らかとなった。ただし、他のHIF-PH阻害薬ではRoxと同程度の血管弛緩は得られなかったことやRoxの反応が極めてacuteであることを考慮すると、RoxはHIF安定化と無関係のオフターゲットを有していることが考えられるため、この点に関しては今後詳細な検討が必要である。