【背景・目的】急性腎障害(AKI)における腎機能低下は一過性であり、完治可能な病態であるとも考えられてきたが、AKIの20~30%が慢性腎臓病へ移行し、透析導入されるケースが極めて多いため、AKIに対する治療薬の開発が喫緊の課題である。可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)は一酸化窒素の受容体として働き、cGMPを産生することで血管拡張作用や抗炎症作用など多彩な生理作用を発揮する。AKIの中でも虚血性AKIは、過剰な活性酸素種の産生や再灌流時のCa2+過負荷に伴う腎動脈の血管収縮が病態形成の一因であると考えられている。そのため、血管拡張作用を有するsGC刺激薬は虚血性AKIに対し保護効果を示す可能性が考えられる。そこで本研究では、虚血性AKIに対するsGC刺激薬BAY 41-2272虚血前投与の影響を検討した。
【方法】8週齢の雄性SDラットを実験に供した。右腎摘出より2週間の回復期間を設け、その後左腎動静脈をクレンメにより45分間阻血し、次いで再灌流(クレンメを除去)することで虚血性AKIモデルを作製した。BAY 41-2272(100, 300および500 µg/kg)は虚血5分前に頸静脈より投与した。一部の実験では、BAY 41-2272投与の影響がsGCに依存しているか否かを調べるために、sGC阻害薬ODQ(5 mg/kg)をBAY 41-2272投与30分前に同様の方法で投与した。再灌流24時間後から5時間の採尿を行い、その後の剖検において血液および左腎を摘出し各種評価に供した。
【結果】虚血再灌流(IR)処置は腎機能マーカーである血漿クレアチニンの増加およびクレアチニンクリアランスの低下を引き起こし、BAY 41-2272 100 µg/kg投与は大きな影響を与えなかったが、300および500 µg/kg投与は明らかな改善効果を示した。またIR処置により生じた腎組織障害(蛋白円柱、鬱血・出血および尿細管壊死)は、腎機能障害と同様に、BAY 41-2272投与により用量依存的に抑制された。加えて、ODQ前投与は上述したBAY 41-2272の腎保護効果を部分的にキャンセルした。
【考察】sGC刺激薬BAY 41-2272の虚血前投与は、腎IRに伴う腎機能障害ならびに腎組織障害に対して、顕著な病態改善効果を発揮した。加えてその改善効果はODQ前投与により一部抑制されたことから、BAY 41-2272投与による腎保護効果はsGCに依存していることも明らかとなった。