【目的】近年、精神疾患全ゲノム関連解析(GWAS)によりfatty acid desaturase 1/2(FADS1/2)が双極性障害の関連遺伝子として同定された。FADS1/2は多価不飽和脂肪酸代謝においてドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸の合成に重要な酵素である。FADS1/2ヘテロ遺伝子欠損(FADS1/2 KO)マウスでは、双極性障害の躁病およびうつ病様エピソードを模倣する輪回し行動の変化が認められている。しかしながら、FADS1/2 KOマウスにおける情動および認知機能については不明である。本研究では、行動テストバッテリーによりFADS1/2 KOマウスにおける双極性障害モデル動物の表面妥当性を評価した。また、脳スライスを用いた電気生理学的解析によりFADS1/2 KOマウスの神経伝達機能を評価した。
【方法】情動機能は社会性行動試験および強制水泳試験、認知機能は新奇物体認知試験、Y迷路試験およびT迷路試験で評価した。内側前頭前皮質(mPFC)の脳スライス標本を用いて、第2/3層に存在する錐体細胞から興奮性シナプス後電流(EPSC)と抑制性シナプス後電流(IPSC)をパッチクランプ法により記録し、興奮性-抑制性のバランス(E/I balance)を解析した。
【結果】野生型マウスと比較して、FADS1/2 KOマウスでは強制水泳試験の無動時間が延長し、Y迷路試験の自発的交替行動およびT迷路試験の正答率が減少した。新奇物体認知試験の探索嗜好性に有意な変化は認められなかったが、総探索時間がFADS1/2 KOマウスで増加した。社会性行動は両群間に有意な変化が認められなかった。FADS1/2 KOマウスのmPFC錐体細胞ではEPSCの発火頻度が減少し、E/I balanceが抑制側へシフトした。
【考察】FADS1/2 KOマウスでは、うつ様行動、物に対する過度な興味と好奇心、作業記憶障害など双極性障害に関連する行動障害が認められたことから双極性障害モデル動物としての表面妥当性が示された。E/I balance が抑制側にシフトしていることからmPFCの活動低下が示唆された。現在、ケモジェネティクス法を用いてFADS1/2 KOマウスの行動表現型とmPFCの活動低下との間の因果関係について解析を進めている。