ストレスやうつ病の病態においては末梢や中枢の炎症が重要であり、その制御には脂質メディエーターの関与が示唆されている。しかし、ストレスによる炎症応答において脂質メディエーターが担う役割や、脂質メディエーターに生じる変化は殆ど明らかでない。本研究では、成体のC57BL/6Nオスマウスを慢性社会挫折ストレスに供し、急性ストレスや慢性ストレス、慢性ストレス後の休息期間の後に骨髄や脾臓を回収し、トランスクリプトーム解析、フローサイトメトリー解析、リピドーム解析を行うことで、ストレスのタイムコースに応じて造血・免疫器官に生じる遺伝子発現、細胞集団、脂質メディエーターの変化を調べた。骨髄では慢性ストレスによってリンパ球の減少と骨髄系細胞の増加が持続的に誘導され、細胞集団の変化と一致した遺伝子発現変化を示した。遺伝子発現変化は、抗炎症性脂質メディエーターである15- deoxy-d12,14-prostaglandin J2の減少と相関していた。脾臓においても慢性ストレスによってリンパ球の減少と骨髄系細胞の増加が誘導されたが、骨髄と異なり一過性の変化であった。加えて、脾臓においては髄外造血を示す遺伝子発現の変化も認めた。脾臓における細胞集団や遺伝子発現の変化は抗炎症・炎症収束性脂質メディエーターである12-HEPEやレゾルビンの減少と関連していた。これらの結果から、慢性ストレスによって誘導される骨髄と脾臓の免疫反応において、抗炎症・炎症収束性脂質メディエーターが重要な役割を果たすことが示唆された。これらの知見は、内因性脂質メディエーターがストレスやうつ病の免疫機構に果たす役割の解明に資する。