妊娠初期の母胎の低酸素状態は精神発達障害の一要因である。これまでに、妊娠中の低酸素負荷によって仔が精神発達障害様の行動表現型を示すラットモデルの樹立に成功し、この動物の帯状回皮質において神経細胞密度の減少を観察している。本研究では、上記ラットモデルの行動異常の原因を探索すべく、さらなる検討を加えた。
実験には、妊娠したF344ラットに低酸素負荷を施し、その母ラットより生まれてきた仔あるいは胎仔を使用した。ラットモデルより得られた脳より冠状切片を作成し、免疫組織化学染色を行なった。また、仔ラットの帯状回皮質における神経伝達機能を細胞外記録法により、集合電位を記録した。さらに、同実験方法にてシナプス応答性について評価し、それぞれを対照動物と比較した。
妊娠期の低酸素負荷ラットモデル(Hypoxiaラット)の帯状回皮質を構成する神経サブタイプへの影響を調べた。その結果、妊娠期低酸素曝露は介在神経密度に影響を与えることなく、グルタミン酸神経細胞である錐体細胞密度の減少を引き起こすこと、そして、これらの変化は既に新生仔期の帯状回皮質で観察されることが明らかになった。また、帯状回皮質の神経機能を評価した結果、定常状態における集合電位はHypoxiaラットにおいて有意な低下を示した。加えて、Hypoxiaラットの帯状回皮質ではpaired-pulse応答および長期増強現象の異常が観察され、妊娠期低酸素曝露は帯状回皮質でのシナプス応答性を障害することが明らかになった。さらに、低酸素曝露直後の胎仔新皮質における神経新生への影響について検討した結果、妊娠期の低酸素曝露は神経幹細胞の増殖活性を上昇させることにより、神経新生の初期段階を妨げられることが明らかになった。
以上、本研究結果より、妊娠期の低酸素曝露は帯状回皮質内の興奮性神経の発達を障害することによって、上記領域の神経伝達異常を引き起こすことが示された。