【目的】統合失調症 (SCZ) 患者の習慣的な喫煙は、喫煙から摂取したニコチン (NIC)が中枢神経系のニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR) を刺激することで、患者自身の精神症状の改善、あるいはNICへの精神的な依存に対する脆弱性の形成に関与すると考えられている。本研究では、SCZ様モデルマウスを用いて、習慣的な喫煙が治療効果を得るためなのか、あるいは精神的依存によるのか、さらにnAChRサブユニットがどのように関与しているかを検討した。
【方法】ddY系雄性マウスにフェンシクリジン(PCP:10 mg/kg/day)を14日間連続投与して、SCZ様モデルマウスを作製した。PCP最終投与の翌日から (-)-NICやリスペリドン(RIS)を11日間連続投与し、最終投与30分後に行動実験を実施した。選択的α7nAChR拮抗薬のメチルリカコニチン(MLC)と選択的α4β2 nAChR拮抗薬のジヒドロ-β-エリスロイジン(DhβE)を(-)-NIC投与の15 分前に投与した。PCP最終投与12日後に脳を摘出し、nAChRサブユニットのmRNAやタンパク質の発現を解析した。
【結果】PCP連続投与マウスでは社会性や認知機能の行動障害、前頭前皮質のα7やα4 nAChRサブユニットの発現減少、側坐核のα7、α4やβ2 nAChRサブユニットの発現増加が認められた。これらの変化は、条件場所嗜好性行動に影響を与えずに(-)-NIC連続投与によって緩解され、両行動障害に対する緩解作用はMLCやDhβEによって抑制された。PCP連続投与マウスに(-)-NIC無作用量とRIS弱作用量を併用投与すると、行動障害が相乗的に緩解され、(-)-NIC連続投与により行動感作とハロペリドール誘発性カタレプシー軽減作用が認められた。
【結論】PCP連続投与マウスではnAChRサブユニットの発現が変化していたこと、(-)-NICによって行動障害が緩解されたが、報酬効果は示さなかったことから、SCZ患者の習慣的な喫煙はnAChRサブユニット刺激によって精神症状や副作用を軽減するためであると示唆される。PCP連続投与マウスでは、(-)-NICに対するドパミン神経の感受性が増加していたことから、これらの緩解作用にはnAChR刺激によるドパミン神経の活性化が関与している可能性がある。