大脳皮質広域の自発的な神経活動は記憶・学習や意思決定などの認知機能と関わり、その異常は神経・精神疾患の病態と関連する。ヒスタミン神経は大脳皮質を含む脳広域に投射し、記憶・学習や睡眠覚醒など多様な脳機能の調節に寄与する。そのため、ヒスタミン神経系の活性化が大脳皮質広域の神経活動に及ぼす影響は、脳機能の調節において重要であると考えられるが、そのメカニズムは不明である。そこで本研究では、ヒスタミン神経系を活性化させるヒスタミンH3受容体(H3R)逆作動薬/拮抗薬が大脳皮質広域の神経活動をどのように調節するかを調べた。C57BL/6Jマウスの大脳皮質広域の神経細胞に蛍光Ca2+センサーGCaMP8mを発現させるため、眼窩静脈叢にAAV-PHP.eB-hsyn-GCaMP8mを投与した。投与から3週間以上経過した後、頭蓋骨を露出させ、背側皮質全域のGCaMP8m蛍光を経頭蓋的に測定した。H3R逆作動薬/拮抗薬であるPitolisant (20 mg/kg)、Thioperamide (20 mg/kg)あるいは生理食塩水を1日毎に腹腔内投与し、投与10分前と投与30分後からそれぞれ10分間の安静時神経活動を取得した。投与する薬物によって大脳皮質全体の神経活動に違いが生じるか調べるため、機械学習によって投与群を識別できるか検証した。投与後の神経活動を10秒ごとに分割し、どの薬物を投与したかラベリングした。この神経活動データセットの一部を用いてサポートベクターマシンによる学習を行い、残りの神経活動データから投与薬物の予測を行った。その結果、3つの薬物を68%の正答率で識別することができ、これは投与前の神経活動を用いた予測よりも高い正答率だった。さらに、各脳領域におけるCa2+イベントを検出し、薬物投与前後で比較した。その結果、薬物投与後のCa2+イベントの大きさの分布が投与群間で異なっていた。特に、Pitolisant、Thioperamide投与群では生理食塩水投与群に比べて、脳梁膨大後部皮質や体性感覚野において大きなイベントが増加し、小さなイベントが減少していた。Ca2+イベントの頻度はどの領域においても差が認められなかった。これらの結果から、H3R逆作動薬/拮抗薬は大脳皮質広域の神経活動を調節し、特に脳梁膨大後部皮質や体性感覚野における神経活動が強調されることが示唆された。