甘草はマメ科ウラルカンゾウ( Glycyrrhiza uralensis )の根を基原とする生薬である.その主要成分glycyrrhizin (GL) は,そのアグリコンであるglycyrrhetinic acid (GA)1分子に対して,3位の水酸基に2分子のグルクロン酸が結合した構造を持つ配糖体である.甘草を経口投与した場合,GLは腸内細菌によってGAへ加水分解されて吸収される.
漢方薬による副作用で頻度の高いのは,高血圧や浮腫,低カリウム血症などの症状を起こす偽アルドステロン症である.その発症メカニズムは,GAが腎尿細管細胞で2型11 β ヒドロキシステロイド脱水素酵素(11 β HSD2)を阻害し,コルチゾルが蓄積,それが鉱質コルチコイド受容体を刺激することでカリウム排泄が促進することによると考えられていた.
演者は,先行研究から,その原因物質はGAではなくGAのグルクロン酸抱合体である3-monoglucuronyl GA (3MGA)であると考えた1,2).3MGAは正常SDラットでは血中には現れないが,多剤耐性関連タンパク質(Mrp2)欠損高ビリルビン血症ラット(EHBR) において血中および尿中から3MGAを検出したこと,3MGAはGAと同程度の11β HSD2阻害作用を持つこと,また,GAは尿細管細胞内に移行できないが3MGAは有機アニオントランスポーター(OAT)1および3の基質として認識され細胞内へ移行できるからである.
次に演者は,3MGAに対するモノクローナル抗体を作成,3MGAを測定するためのELISAを開発した3).GAを経口投与したEHBRの血中,尿中の3MGA濃度をLC-MS/MSとELISAそれぞれで測定したところ,後者の実測値は前者の実測値よりも高い値を示した.この尿を薄層クロマトグラフィーにより展開,膜に転写,抗3MGA抗体で発色させるイースタンブロットを行ったところ,3MGAの位置よりも極性の高い位置に発色が認められた.それを指標に,この尿から新規化合物として22α-hydroxy-18β-glycyrrhetyl-3-O-sulfate-30-glucuronide (1),22α-hydroxy-18β-glycyrrhetyl-3-O-sulfate (2) を,既知の18β-glycyrrhetyl-3-O-sulfate (3)とともに得た4)23は,GAと同程度の11βHSD2阻害作用があった.GAを経口投与したEHBRの血漿からは,GA, 321の順で検出され,12時間後の血中濃度はそれぞれ同程度であった.3MGAの血中濃度はそれらの約100分の1で,マイナーな代謝物であった. 123はそれぞれOAT1と3の基質として認識された.
そして,実際に甘草を含む漢方製剤を服用し,偽アルドステロン症を発症した患者の血漿から,3を主に検出し,その濃度はGAよりも高かった.
以上のことから,甘草による偽アルドステロン症の真の原因物質は 3である可能性が高いと予想された.
【文献】
1) Makino T, et al. Drug Metabo Dispos 2008;36(7):1438–43.
2) Makino T, et al. J Pharmacol Exp Ther 2012;342(2):297–304.
3) Morinaga O, Makino T, et al. Sci Rep 2018;8:15568.
4) Ishiuchi K, Makino T, et al. Sci Rep 2019;9:1587.

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