【目的】
 早産児や低出生体重児の肝機能は未熟であり、肝機能不全を起こす可能性がある。近年、切迫早産の母体に、グルココルチコイド(GC)を投与することが推奨されている。出生前GC投与により胎児の肺や心臓の成長が促進される報告は多くあるが、胎児の肝臓に及ぼす影響に関する報告は少ない。本研究では、出生前GC投与による肝臓への影響を明らかにするためビリルビン代謝酵素や細胞周期、成熟に関する因子について検討した。
【方法】
 Wistar系妊娠ラットの妊娠17日目及び19日目にごま油に溶解したDexamethasone (DEX) 1.0mg/kg又は2.0mg/kgを2日間皮下投与した。その後、麻酔下で帝王切開した早産仔ラット (早産仔群:19F, 21F) の肝組織を摘出した。また、自然分娩させた日齢1日のラットを新生児群、8週齢のラットを成体群とし、それぞれの肝臓を摘出した。
 正常肝より樹立されたRLN-B2細胞に、ジメチルスルホキシド (DMSO) で溶解したDEX (終濃度1.0 μM、3.0 μM、10.0 μM、30.0 μM) を添加し24時間処理をした。
 細胞周期マーカーであるCyclin B、肝細胞の分化および成熟化に必須な転写因子と考えられているHNF4α、ビリルビン代謝酵素のUGT1A1のmRNA発現量は、Real-Time PCRで解析した。
【結果・考察】
 出生前GC投与におけるCyclin Bは、胎生19日から日齢が進むごとに低下した。胎生19日、胎生21日共に、非投与群と比較してDEX 1.0mg/kg投与群においてCyclin Bが低下した。また、HNF4αは、早産仔群において、出生前GC投与により増加した。UGT1A1 mRNA発現量は、胎生19日のDEX 1.0mg/kg投与において増加を示した。
 RLN-B2細胞におけるCyclin Bは、DEX 1μMから30μM添加でいずれも低下した。しかし、UGT1A1は、DEX添加により減少傾向を示した。
 すなわち、Cyclin Bは、早産児ラットとRLN-B2細胞においては、同様の結果を示したが、UGT1A1では異なる結果が得られた。これは、GCが与える影響には違いがあることが考えられた。
 以上のことから、出生前GC投与においては、細胞周期を遅くするが、細胞の分化や成熟を促進させることが示唆された。

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