近年、細胞内の小器官や分子複合体などのナノ構造体がシナプス伝達やオートファジーなど多様な細胞機能の制御に重要な役割を担っていることが明らかになってきた。数10ナノメートルのナノ構造体の可視化解析には光の回折限界を超えた空間分解能を有する超解像顕微鏡法が有用であるが、複数ある超解像顕微鏡のモダリティの中でも最も高い空間解像度を有する単一分子局在化法は特に有望である。単一分子局在化法では解析対象分子に標識した蛍光分子を確率的かつまばらに明滅させて蛍光輝点の中心位置をマッピングする作業を数万枚の画像に対して繰り返し行うことで、20 nm以下の空間分解能を持つ超解像イメージを得ることができる。しかしながら、現行の単一分子局在化法は、測定の際に蛍光分子の明滅を実現するために細胞毒性の高い還元剤を高濃度で標本に添加が必要であったり、蛍光輝度が暗い蛍光タンパク質を用いたりするためナノ構造体の解析に十分な空間解像度を有するライブセル超解像イメージング法は確立していない。
本研究では単一分子局在化法によるライブセル超解像イメージングを実現するために、還元剤に頼らない蛍光明滅法としてDe-Quenching of Organic Dye Emission(De-QODE)システムを開発した。De-QODEシステムは蛍光分子と蛍光消光団を共有結合させたケミカルプローブであるQuenched Orgaminc Dye Emission(QODE)プローブと観察対象分子との融合タンパク質として細胞内に発現させる抗蛍光消光団抗体であるDe-Quenching of Organic Dye Emission(DeQODE)タグから構成される。QODEプローブはDeQODEタグと結合することで蛍光の消光が解除されて蛍光性となることが期待できる。DeQODEタグを発現させた種々の培養細胞でのテストでは、QODEプローブの負荷に伴って観察対象の分子や細胞内小器官に標識したQODEプローブの蛍光明滅が観察された。De-QODEシステムを利用したライブセル超解像イメージングによって、細胞内小器官構造の経時的な観察が可能であることを示した。De-QODEシステムによるライブセル超解像顕微鏡法によってナノ構造体の細胞内動態の解析が進展し、細胞機能制御におけるナノ構造体の機能的役割の解明が進むことが期待できる。

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