【背景・目的】着床に向けた子宮内膜の機能的分化(胞胚受容能の獲得)には、子宮内膜間質細胞(ESC)の脱落膜化が必須である。排卵後の卵巣から分泌されるプロゲステロン(P4)は、P4受容体(PGR)との結合を介して脱落膜化を促進する。P4に親和性を示すPGR膜構成因子1(PGRMC1)は、典型的なPGRとは異なる経路でP4の作用発現に寄与することが示唆されているが、子宮内膜におけるPGRMC1の役割は不明である。本研究では、月経周期内でのPGRMC1発現調節と脱落膜化における役割を検証した。【方法】子宮内膜におけるPGRMC1の局在と変化を免疫組織染色により調べた。初代培養ヒトESCに脱落膜化刺激としてP4(1 μM)とcAMP誘導体のジブチリルcAMP(db-cAMP: 0.5 mM)を処置し、脱落膜化細胞におけるPGRMC1発現を未分化細胞と比較した。さらにPGRMC1の発現調節に関わるmicroRNA(miRNA)を探索し、脱落膜化過程におけるmiRNAを介したPGRMC1発現調節を検証した。また、ESCの脱落膜化に対するPGRMC1阻害薬(AG205)とsiRNAによるノックダウンの効果を脱落膜化マーカーであるIGF結合タンパク質1(IGFBP1)とプロラクチン発現を指標に検討した。さらに、脱落膜化時に起こる細胞老化とPGRMC1との関係についても調べた。【結果】子宮内膜におけるPGRMC1発現量は、増殖期と比較して分泌期で低下した。また、初代培養ヒトESCにP4とdb-cAMPを処置し、脱落膜化を誘導するとPGRMC1発現が減少した。この分泌期におけるPGRMC1発現の低下に関わるmiRNAとしてmiR-98を見出し、ESCにmiR-98 mimicを導入するとPGRMC1発現が減少した。ESCに脱落膜化刺激を加えると、miR-98発現量が増加した。PGRMC1と脱落膜化との関係を調べるため、PGRMC1阻害薬(AG-205)を前処置し、P4とdb-cAMPによる脱落膜化への影響を調べたところ、AG205 は、脱落膜化を促進した。さらに、siRNAによるPGRMC1ノックダウンによっても脱落膜化が促進された。【考察】月経周期分泌期におけるmiR-98を介したPGRMC1の発現低下は、胞胚の着床に不可欠な脱落膜化を促進することが示唆された。

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