【背景・目的】ナファモスタットは高カリウム血症を誘発することが臨床報告されているが,その薬理学的な機序は明らかでない。発症機序の解明を目標に,本研究ではナファモスタット誘発性高カリウム血症モデルを作成することを目的とする。
【方法】9週齢(体重300g前後)のWistar-Imamichi雄ラットを用い,セボフルラン吸入麻酔下, 大腿静脈(投与用), 膀胱, 頚静脈(採血用)にカテーテルを留置した。留置カテーテルより薬物を投与し,採尿・採血を, 薬物投与前後にそれぞれ2,6回, 15分間隔で行った。はじめにナファモスタット投与群(1.2 mg/kg/h c.i.)と, 5%グルコース投与群で比較した。次にナファモスタット(0.9, 1.8, 3.6 mg/kg/h c.i.)とカリウム保持性利尿薬(アミロライド)の併用群と,アミロライド単独群で比較した。血清カリウム濃度はイオン電極法で測定した。薬物投与後のカリウム値から投与前のカリウム値を引き、その面積を求めた(Δカリウム)。検定は,ナファモスタット単独投与群はt検定を用いて,アミロライドとの併用群では一元配置分散分析Tukey法(有意水準p<0.05)を用いて行った。
【結果】Δカリウム値について,ナファモスタットの単独投与とグルコース投与群ではそれぞれ0.19±0.97,-0.38±0.59 mEq*hr/Lであった(p=0.434,各n=3)。ナファモスタット(0.9, 1.8, 3.6 mg/kg/h c.i.)とアミロライド併用群ではそれぞれ1.31±0.38,1.36±0.36,0.93±0.36,アミロライド単独群では0.713±0.13 mEq*hr/Lであった。ナファモスタットの0.9, 1.8 mg/kg/h群でアミロライド単独群に比べて有意な上昇を認めた(p=0.046,p=0.028,各n=5)。
【考察】ナファモスタット単独では高カリウム血症を認めなかったが、アミロライドと併用することで高カリウム血症モデルを作成する事ができた。ナファモスタット誘発性高カリウム血症の臨床報告では,腎機能障害を伴っており,本研究ではアミロライドを併用しカリウム排泄を制限することで臨床報告の病態に近づけることができたと考えられた。アミロライド存在下にナファモスタット誘発性高カリウム血症モデルを作成することができた。

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