【背景】気管支喘息は気道の慢性炎症を本態とし、変動性を持った気道狭窄や咳などの臨床症状で特徴付けられる疾患であり、その治療にはステロイド抗炎症薬による炎症の制御が重要である。しかし、重症喘息ではステロイド治療抵抗性を呈し、炎症の制御が困難になる場合がある。そのため、ステロイド抗炎症薬とは異なる機序で作用する新規治療薬の開発が望まれている。Srcは、気管支喘息をはじめとする種々の気道炎症・免疫応答に関連することが報告されており、気管支喘息の新規治療標的となる可能性が考えられた。そこで本研究では、ovalbumin (OVA) で誘発したマウスのアレルギー性気道炎症に対するSrc阻害薬の効果について検討した。
【方法】A/J系雄性マウスにOVA/水酸化アルミニウムを腹腔内投与して感作させた後、1日間隔で6回、OVAを曝露させて (経鼻曝露5回の後、吸入曝露1回)、気道炎症を誘発した。その後、Src阻害薬としてdasatinibを1日2回、3日間経鼻投与した。薬物の最終投与1日後に肺及び気管支肺胞洗浄液 (bronchoalveolar lavage fluid; BALF) を採取した。肺のホルマリン固定パラフィン包埋切片は、hematoxylin & eosin染色して光学顕微鏡下で観察し、BALF中の炎症性細胞数、TNF-α量及びCXCL1量は、それぞれflow cytometer及びELISA法を用いて測定した。
【結果・考察】OVA感作・曝露により肺における炎症細胞の増加が観察され、dasatinibによって炎症細胞の増加が抑制された。また、BALF中の好酸球数及び好中球数もOVA感作・曝露によって統計学的に有意に増加し、dasatinibはこれらの炎症細胞数の増加を用量依存的に抑制した。さらに、BALF中のTNF-α量及びCXCL1量もOVA感作・曝露によって統計学的に有意に増加し、dasatinibはTNF-α量の増加を用量依存的に抑制し、CXCL1量の増加に対しても抑制傾向を示した。以上の結果から、アレルギー性気道炎症に対してdasatinibが抗炎症作用を示すことが明らかになった。したがって、Src阻害薬は、ステロイド抗炎症薬とは異なる機序で作用する気管支喘息の新規治療薬となることが期待される。

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