【緒言】2−スチリルクロモンはクロモン骨格の2位にスチリル基が結合した誘導体である。合成2-スチリルクロモンには抗酸化活性、抗アレルギー作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス活性が報告されている。一方、本誘導体の細胞毒性に関する報告数は限られているのが現状である。今回の報告では、18種類の合成2−スチリルクロモン誘導体の細胞毒性を調査し、定量的構造活性相関解析(QSAR)に供した。
【方法】細胞の生存率は、MTT法で測定した。濃度依存曲線より50%細胞傷害濃度(CC50)を求めた。腫瘍選択性(TS)は、3種のヒト口腔扁平上皮癌細胞(Ca9-22, HSC-2, HSC-3, HSC-4)に対するCC50の平均(A)をヒト口腔正常細胞(歯肉線維芽細胞HGF、歯根膜線維芽細胞HPLF、歯髄細胞HPC)に対するCC50の平均(B)で割り求めた(TS=A/B)。また、腫瘍選択性と細胞傷害性の両方を反映したPSE値を計算した(PSE = TS/A × 100)。アポトーシスの誘導は、セルソーターを用いた細胞周期解析により評価した。QSAR解析においては、物理化学的、構造的、量子化学的特徴量3,117種類を、Corinaを用いて最適化された2−スチリルクロモン誘導体の最安定化構造より算出し、腫瘍細胞および正常細胞に対するCC50および腫瘍選択性との相関を観察した。
【結果・考察】数種類の2−スチリルクロモン誘導体は対象としたドキソルビシンに匹敵する強い腫瘍選択性を示した。特に、ベンゼン環4位にメトキシ基を導入した2種類の誘導体は、TS値においてドキソルビシンと同等以上の腫瘍選択性を示した。また、これらの細胞は、subG1期およびG2/M期の細胞を増加させたことから、アポトーシスを誘導した可能性が示唆された。QSAR解析の結果、68種類の化学的特徴量が細胞傷害活性および腫瘍選択性と統計的に有意に相関した。重要な特徴量を解析した結果、2−スチリルクロモン誘導体の腫瘍選択性等は主に分子形状および電子状態と関連する特徴量によって説明できることが分かった。以上の知見は、2−スチリルクロモン誘導体をシード化合物とした安全かつ有効な抗がん剤の開発に寄与するものと期待される。

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