【緒言】放射線に対する細胞保護効果の研究の大半は紫外線を用いた研究である。X線は歯科領域でも診断に使用されており、長期的な暴露が全身の健康に対してどの程度の影響を与えるかは不明である。我々は、X線傷害を再現性良く誘導でき、その程度を定量化できる方法の確立を目指し、今年の4月より研究を開始した。我々は、第140回日本薬理学会において、X線照射の細胞に対する直接的傷害効果を判定できる実験系を先ず構築することに主眼を置き、抗酸化剤や茶抽出液の保護効果を測定する条件設定の検討を行った。ヒール効果により、96穴プレートの左側と比較し、右側に到達したX線の線量が、約10%減少することが判明したため、96穴の左側に細胞を播種した。プレートの覆いによるX線量の減弱は、0.7%程度であるため、覆いをしたまま照射しても問題がないこと、ビタミンCやN-acetyl-L-cysteineなどの抗酸化剤が若干の保護効果を示すことを見出した。しかし、X線照射による細胞傷害は、プレートが置かれた位置で多少変動するため再現性のある実験結果が得られないことが判明した。均一なX線照射細胞が得られる方法の確立の構築を目指した。
【方法】本研究では、神経分化の研究に繁用されているラット未分化PC12細胞を用いて、トリプシン剥離後、FBSでトリプシンの作用を止め、無血清培地に懸濁された細胞にX線を照射し、種々の濃度のNGFを添加し、24時間培養し、生細胞をMTT法で測定して、X線照射によるダメージを検討した。【結果】500mGy以上のX線照射により、有意に生細胞数が減少すること、NGFの添加により生細胞数が増加し、かつ、X線によるダメージも緩和することが明らかになった。【考察】生き残った細胞の増殖をNGFが促進した結果なのか、NGFが細胞死を抑制した結果なのか不明である。MTTアッセイは細胞増殖と細胞死の両方のかけ算を見ているので アポトーシスの誘導並びに細胞周期を調べる必要がある。また、この系を用いて、抗酸化剤などの保護効果の再現性を確認中である。

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