【緒言】クロモンはクマリンの異性体に相当し、多様な植物における二次代謝産物の基本骨格を構成する。これまでに我々は3-styrylchromone誘導体、3-styryl-2H-chromene誘導体、2-azolylchromone誘導体等のクロモン関連化合物に関する抗腫瘍効果および腫瘍選択性を報告してきた。今回の研究では、8種類の2-Arylazolylchromonesおよび12種類の2-Triazolylchromonesを合成し、各化合物の細胞傷害性の測定及び、定量的構造活性相関(QSAR)による化合物の物理化学的性質と腫瘍選択性との相関解析を実施した。さらに、2-Arylazolylchromonesと2-Triazolylchromonesの置換基と腫瘍選択性との相関解析を実施し、抗腫瘍活性を検討した。
【方法】細胞傷害性はMTT法で測定した。腫瘍選択性(TS)はヒト口腔正常細胞(歯肉線維芽細胞HGF、歯根膜線維芽細胞HPLF)のCC50の平均(A)を、2種類のヒト口腔扁平上皮癌細胞(Ca9-22、HSC-2)のCC50の平均(B)で除した値とした。さらに、腫瘍選択性と細胞傷害性を反映したPSE値を計算した(PSE=A/B2×100)。アポトーシスの誘導は、セルソーターによる細胞周期解析により評価した。QSAR解析では、Corinaにより最適化された各化合物の最安定化構造より、3,218種類の物理化学的・構造的・量子化学的特徴量を算出した。置換基による解析では、主な官能基の違いにより5通りの解析を実施した。
【結果・考察】化合物(6)は最大のTS値を示したが、5-FUとdoxorubicinには及ばなかった。陽性対照のactinomycin Dとは対照的に、化合物(6)は、アポトーシスマーカーであるsubG1期の細胞の集積は誘導せずに、濃度依存的にG2+M期の細胞の集積を誘導した。20種類のクロモン誘導体のTS値は、分子の3次元形状やイオン化ポテンシャルを表す記述子との相関が認められた。置換基別の解析では、細胞傷害性はベンゼン環の個数や窒素を含有する五員環の種類と、腫瘍選択性も窒素を含有する五員環の種類との相関が認められた。化合物(6)を化学修飾した物質は、新たな抗癌剤の候補化合物となる可能性が期待される。

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