【背景】トランスポーターは細胞膜輸送タンパク質であり細胞への栄養素(糖、アミノ酸など)の供給や細胞からの代謝産物(ケトン体、薬剤など)の排除を担う。アミノ酸輸送系L (L-type amino acid transporter)は、分枝アミノ酸や芳香族アミノ酸などのbulkyな側鎖をもった中性アミノ酸をNa+非依存的に輸送するトランスポーターであり、そのうちのひとつであるLAT1(SLC7A5)は、癌特異的に高発現していることが知られている。LAT1はLeucineを含む多くの必須アミノ酸を細胞内に輸送し、癌細胞に必須な栄養を供給している。消化器癌(食道、胃、肝胆膵、大腸)をはじめ、肺癌、乳癌、頭頚部癌など様々な癌種においてLAT1の高発現群は予後不良と報告されている。また、LAT1選択的阻害薬であるJPH203が癌細胞の増殖を抑制するという報告が消化器癌や肺癌、頭頚部癌などで報告されている。泌尿器科癌の中でも患者数の多い前立腺癌、腎細胞癌、膀胱癌において、我々のグループは患者検体を用いてLAT1の発現と予後や病理学的悪性度との関連について報告している。前立腺癌は罹患率が上昇し、近年は男性で罹患率1位と推定されている。男性ホルモン(Androgen)依存的に増殖・分化することが知られており、転移再発症例においてもホルモン遮断療法が一般的に奏功する。しかし、10年以内に多くの症例が初期ホルモン治療に抵抗性を獲得し(CRPC:castration resistant prostate cancer)、抗癌剤などを投与しても数年の予後である。近年、我々はCRPCモデルである前立腺細胞株C4-2でLAT1の発現が亢進することを報告した。治療抵抗性であるCRPC症例に対する治療標的としてLAT1阻害薬(JPH203)に対する期待は大きい。【目的・方法】前立腺癌においてJPH203が治療薬となりうるか検討を行った。ホルモン感受性株LNCaP細胞と去勢抵抗性株C4-2細胞をもちいてJPH203投与下に[14C] Leucine up takeを行った。細胞毒性試験としてJPH203投与下にWST-8 assayを行った。さらに、細胞遊走・浸潤能を評価する目的でCorning™ Falcon™ Cell Culture Insertsを用いてMigration・Invasion assay を行った。【結果・考察】抵抗性株のC4-2細胞ではJPH203投与によりLeucineの取り込みが優位に阻害された。また、in vitroでJPH203は細胞毒性を持ち、前立腺癌の遊走・浸潤能を阻害することが示された。これらの結果から去勢抵抗性前立腺癌において、LAT1を標的としたJPH203が治療薬となる可能性が示された。

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