アミノ酸トランスポーターLAT1は多くのがん細胞に高発現し、細胞増殖に寄与すると考えられており、がん治療における新たな分子標的として注目されている。我々は乳がん細胞株MDA-MB-231とT-47Dを用いて、LAT1特異的阻害薬JPH203によるアミノ酸取り込み阻害実験を行ったところ、両細胞において1μMで取り込みが阻害された。さらに、JPH203の増殖抑制効果をMTT assayで評価すると、IC50はMDA-MB-231細胞では100μM, T-47D細胞では5μMと20倍も異なった。これらの結果より、JPH203はLAT1を介したアミノ酸取り込みを阻害できているにも関わらず、増殖抑制効果は異なることがわかった。そこで本研究では、MDA-MB-231細胞とT-47D細胞におけるJPH203の増殖抑制効果の違いは、アミノ酸飢餓に対する遺伝子発現の変化が関与すると考え、DNAマイクロアレイを用いて、JPH203の抵抗性に関わる因子の探索およびその発現・機能解析を行うことを目的とした。T-47D細胞から抽出したcDNAを用いてJPH203の存在下・非存在下での遺伝子発現の解析をDNAマイクロアレイで網羅的に行ったところ、2倍以上の変動があった遺伝子の多くはアミノ酸代謝、アミノ酸合成、細胞増殖、ストレス応答に関連していた。我々はその中で、ストレス応答に関わる転写因子ATF4に着目した。リアルタイムPCRでは、T-47D細胞だけでなくMDA-MB-231細胞でもJPH203処理によりATF4が誘導されていたが、MDA-MB-231細胞の方がより強く誘導されていた。MDA-MB-231細胞において、siRNAによるATF4のノックダウンでは、JPH203の存在下でsiControlと比べてsiATF4では約20%細胞数が減少し、同細胞のJPH203抵抗性を弱めることができた。さらに、MDA-MB-231細胞においてATF4上流のGCN2をノックダウンすると、ATF4ノックダウンと同様の結果になった。以上より、MDA-MB-231細胞においてはJPH203のLAT1阻害はアミノ酸飢餓ストレスによるGCN2-ATF4経路を活性化し、JPH203抵抗性の原因となっていることが示唆された。

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