【背景・目的】Risperidoneは抗精神病薬であるが、心筋IKr抑制作用(IC50=261 nM)を有し、TdPの発症例が報告されている。いずれも並存疾患や併用薬存在下での報告であり、risperidone単独投与によるTdP誘発リスクは不明である。本研究では薬物性QT延長症候群の高リスク患者と同程度のTdP発生素因を有する慢性房室ブロック犬を用いて、risperidoneのTdP発生に対する安全域を推定した。
【方 法】ビーグル犬をthiopental sodium(30 mg/kg, i.v.)で全身麻酔を導入後、房室結節をカテーテル焼灼し、完全房室ブロックを作製した(n=4)。ブロック作製後6週間以上経過した個体にホルター心電計を装着し、臨床用量の約100倍であるrisperidone(3 mg/kg, n=4)を無麻酔下で静脈内投与した。薬物投与前および投与後21時間までの心電図RRおよびQT間隔を計測した。さらに、連続51心拍のQT間隔の1拍ごとの変化より再分極過程の時間的ばらつき(STV)を算出した。
【結 果】RisperidoneはTdPを誘発しなかった。薬物投与前の心室拍動数、QT間隔、QTcFおよびSTVは、28±2 bpm、373±19 ms、289±11および6.8±1.2 msであった。薬物投与1時間後から6時間後まで心室拍動数は増加し、QTcFは薬物投与後6時間で延長した。STVに有意な変化を認めず、薬物投与1時間後のSTV(∆STV)は6.9±0.6 (+0.1±0.9) msであった。
【考 察】RisperidoneのTdP発生に対する安全域は100倍以上であることが示された。その根拠を推定するために、ハロセン麻酔犬に同用量のrisperidoneを投与した過去の研究におけるJ-TpeakcおよびTpeak-Tendを再解析した(n=5)。RisperidoneはJ-Tpeakcに有意な変化を示さなかったが、Tpeak-Tendを延長した(Δ+10±2 ms)。従って、risperidoneはIKrを抑制するが、正味の内向き電流の増加による細胞内Ca2+過負荷を生じないためSTVが増大しなかったと考えられる。また心室拍動数の増加もTdPの発生に対して抑制的に作用したと考えられる。

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