【背景】ビーグル犬に完全房室ブロックを誘発し、4週間以上経過すると、心臓に容量負荷に基づく構造的リモデリングが完成する。この慢性房室ブロック(CAVB)犬の心房を6週間以上高頻度電気ペーシングするとペーシング停止後24時間以上持続する心房細動(持続性心房細動)が必発するので、新規抗心房細動薬の薬効評価モデルとして期待されている。
【目的】心房に対する高頻度電気ペーシングの薬理学的・解剖学的・組織学的・遺伝学的な影響を評価することにより、心房細動の持続化の機序を解明した。
【方法】ビーグル犬(n=10)の房室結節をカテーテル焼灼法により破壊し、房室ブロックを作成した。4週間後にペースメーカーを植え込み、心房電気ペーシングを刺激頻度600 bpmで6週間行い持続性心房細動を誘発した(n=6)。まずIb群抗不整脈薬aprindineおよびIa群抗不整脈薬cibenzolineの抗心房細動作用を評価し、持続性心房細動モデルとしての薬理学的特徴付けを行った。次にCAVB犬(n=4)および持続性心房細動犬に対して心エコー検査を実施し、さらに解剖学的検査、病理組織学的検査、マイクロアレイ法による遺伝子発現解析およびRT-PCR法によるイオンチャネル遺伝子発現解析を行った。
【結果】Aprindineおよびcibenzolineは6例中0例および2例の心房細動を停止した。持続性心房細動犬はCAVB犬と比較し左房径および左房収縮末期容積の増加傾向を示した。一方、右房および左房の重量、心房筋細胞径および線維化の割合に有意な差は認められなかった。また、持続性心房細動犬ではCAVB犬と比較し、代謝調節関連遺伝子ankyrin repeat domain 23の減少、筋細胞関連遺伝子tropomyosin 3およびmyopalladinの減少、syncoilin, intermediate filament proteinの有意な増加が観察された。さらに、IKurおよびIK1チャネルを構成するKCNA5およびKCNJ2の遺伝子発現が減少していたが、IK,AChチャネルを構成するKCNJ3およびKCNJ5の遺伝子発現は増加傾向を示した。
【結語】心房に対する高頻度電気ペーシングは、心房壁の肥大化および線維化を進行させなかったが、心房を拡大させ、イオンチャネルの発現量を変化させた。これらの変化が心房細動の持続化に寄与していると考えられた。

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