《背景・目的》心房特異的に存在するIK,AChに対する選択的遮断薬は心房選択的な作用を示し、心室不整脈の誘発リスクが低い心房細動治療薬として期待されている。心房細動モデル動物で抗心房細動効果を確認後に実施された臨床試験で、IK,ACh遮断薬は発作性心房細動に対し有効性を示さなかった。使用されたモデル動物と心房細動患者の病態が合致しなかったことがその原因として考えられ、より適切な心房細動モデルの開発が現在も求められている。本研究では、発作性心房細動治療薬の新しい評価モデル動物として、慢性の容量負荷に起因する心房の器質的変化と発作性心房細動の自然発生を認める慢性房室ブロック犬の可能性を検証するため、本モデル犬に生じる心房細動に対するIK,ACh遮断薬AVE0118の作用を評価した。
《方法》麻酔下の慢性房室ブロック犬(n=4)に0.24, 1.2および6 mg/kg/10 minのAVE0118を静脈内投与し、血圧、体表面心電図および心房電位図を記録した。プログラム電気刺激により心房および心室における有効不応期を測定した。心房中隔に留置した電極カテーテルよりバースト刺激を10秒間行うことにより発作性心房細動を誘発させ、心房細動持続時間および心房細動周期を測定した。
《結果》低用量のAVE0118は各指標に有意な作用を示さなかった。中用量は心房拍動数を減少させた。高用量は心房拍動数をさらに減少、平均血圧を上昇、心房間伝導時間および心房有効不応期を延長させたが、心房細動持続時間および心房細動周期に有意な変化を認めなかった。
《考察・まとめ》慢性房室ブロック犬で観察された心房に対するAVE0118の電気生理学的作用および発作性心房細動に対する作用は臨床試験で得られた結果を反映すると考えられた。臨床で発作性心房細動の治療に用いられているpilsicainideおよびamiodaroneは慢性房室ブロック犬で有効不応期を延長させ心房細動を抑制することが既に示されていることから、慢性房室ブロック犬は発作性心房細動に対する有効な薬物の検出に有用なモデルとして期待できる。

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