【背景】本研究室ではイヌおよびマイクロミニピッグの完全房室ブロック(AVB)モデルを開発してきた。これらのモデルを用いた薬物性torsade de pointes評価の検討から、薬物感受性に種差があることが判明した。今回はイヌやブタと同じ非げっ歯類動物であるカニクイザルのAVBモデルを用いてTdP発生とその必要条件を検討した。【方法】2-3歳齢の雄性カニクイザル(n=10)にAVBを作製後、dl-sotalolによるTdP誘発性、心エコー図、胸部X線写真、覚醒下心電図および血漿中神経体液性因子を15ヵ月間1ヵ月ごとに評価した。また、TdPが誘発された個体で病理組織学検査、網羅的遺伝子発現解析を実施した。【結果】AVB作製により評価期間中、持続性徐脈が維持された。12ヵ月後までにdl-sotalolの投与によりTdPが10例中6例で発生した。拡張期左室内径(17.5→20.1 mm)、拡張期左室後壁厚(2.8→3.5 mm)、心胸郭比(55.8→59.6%)は1ヵ月後の時点で増加し、評価期間中この傾向は持続した。AVB作製直後には心拍出量が減少したが(0.64→0.30 L/min)、AVB作製直後と比較して1ヵ月後には増加し(0.46 L/min)、この状態は評価期間中、維持された。1ヵ月の時点で、QT間隔(167→235 ms)、QTcF(261→278)、およびQRS幅(40→46 ms)は延長し、評価期間中この傾向は持続した。血漿中神経体液性因子の内、ANPは1ヵ月後に増加し(7.2→90.9 pg/mL)、この状態は評価期間中、維持された。AVB作製後7ヵ月の間にdl-sotalolにより3回以上のTdPが誘発された不整脈を起こしやすい個体(n=2)では、病理組織学検査において心筋細胞の肥大と間質の線維化が認められ、網羅的遺伝子発現解析では心筋伸展に関連する遺伝子であるnatriuretic peptides B-like、線維化関連遺伝子であるconnective tissue growth factorの発現上昇が認められた。【結論】カニクイザルAVBモデルにおいて、dl-sotalolは10例中6例で薬物性TdPを誘発した。薬物性TdP発生のためには、AVB作製後の心臓における形態学的・機能的・電気生理学的変化が必要条件と考えられた。

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