【目的】 成人期の虚血性疾患の発症リスクは胎児期の環境に影響されることが推定されている。胎児心臓は通常でも低酸素状態にあるが、低酸素応答に関与する血管増殖因子の機能が未熟であると成長後に心不全に進展する可能性が考えられる。我々は臨床で実施されている妊娠母体に対する出生前グルココルチコイド(GC)が、早産児の心臓肥大と血管増殖因子(VEGF)の発現を増強することを示してきた。しかし、VEGFの調節に必要な低酸素誘導因子hypoxia-inducible factor (Hif)-1やその制御に関与するp53の発現については未だ不明である。本研究では、出生前GC投与による早産胎仔ラットの心臓において低酸素応答関連因子の発現を検討した。
【方法】 Wistar系ラットの妊娠19日および21日目に帝王切開で取り出した胎仔ラット(19F, 21F) および自然分娩させた日齢1日の新生仔ラット (1N) の心臓組織を摘出した。また各群で、出産2日前の妊娠ラットにデキサメサゾン(DEX:0.5,1.0, 2.0mg/kg)を2日間皮下投与した胎仔および新生仔群を作成した。また日齢ごとの評価として日齢3日(3N)、5日(5N)、8週令(8W)ラットの心臓を用いた。心臓組織のHif-1およびp53の蛋白発現は免疫組織染色で評価した。
【結果および考察】日齢による検討では、Hif-1発現は19Fの右室で高く、21Fより有意に低値を示した。19F, 21Fおよび1Nの左室は、Hif-1発現量に有意な差は無かったが、3Nでは有意に低かった。また右室は21Fで、左室では19F, 21Fで、DEXがHif-1発現を有意に増加した。Hif-1発現を制御するp53は両室とも19Fの発現が高く、日齢が進むにつれて低下した。DEXは19Fの右室で有意に低下したが21Fでは影響しなかった。 左室のp53発現は、DEX 2.0㎎/kg投与時の19F, 21Fで有意に低下した。
早産仔の心筋ではp53の発現がHif-1の発現を制御していると推測され、DEX投与はp53の発現を抑制しHif-1の発現を増加させることがわかった。またHif-1の発現は成長に伴い低下するが、右室と左室で違いがあることが示唆された。出生前GC投与は胎児では低酸素応答を活性化させ血管新生の促進に働いているかもしれない。

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