【目的】インドキシル硫酸は、食品タンパク質に含有するトリプトファンが腸内細菌による代謝を経て体内で生成されることから、健常人においても生成されうるが、腎機能が正常な場合尿中に排泄される。しかし、何らかの理由で腎機能が損なわれた場合、体内に貯留し、その腎毒性から慢性腎臓病の進展因子として注目されている。さらに、慢性腎臓病のみならず、血管病の進展因子としての役割も明らかとなりつつある。しかしながら、上腸間膜動脈に対する直接的な影響、内皮依存性弛緩反応への影響は明らかではない。そこで、ラットより上腸間膜動脈を摘出し、インドキシル硫酸急性暴露による内皮依存性弛緩反応について検討を行った。【方法】雄性Wistarラットの上腸間膜動脈を摘出しリング標本をオルガンバスに懸垂し、Vehicleあるいはインドキシル硫酸を30 min処置し、フェニレフリンで収縮させアセチルコリン (ACh) による弛緩反応を内皮保持及び内皮除去標本にて観察した。また、ニトロプルシドナトリウムによる弛緩反応を観察した。さらに、ACh誘発弛緩反応を、nitric oxide synthase 阻害薬 (L-NNA)、cyclooxygenase 阻害薬 (indomethacin)、small-conductance calcium activated potassium channel 阻害薬 (apamin)、intermediate-conductance calcium activated potassium channel 阻害薬 (TRAM-34) を用いて関連分子活性を阻害した条件下にて検討した。
【結果・考察】Vehicle 群と比較しインドキシル硫酸群において、ACh弛緩反応の減弱が認められた。このAChによる弛緩反応は、内皮除去により完全に消失した。一方、インドキシル硫酸はニトロプルシドナトリウム誘発弛緩反応に影響を及ぼさなかった。阻害薬を用いて内皮由来弛緩因子の成分を検討したところ、L-NNA処置で両群の差が消失、indomethacin処置で依然インドキシル硫酸群で減弱、L-NNA/indomethacin処置で両群の差が消失、indomethacin/TRAM-34/apamin処置で依然インドキシル硫酸群で減弱したことが観察された。また、L-NNA/indomethacin処置下におけるNS309 (small-conductance/intermediate-conductance calcium activated potassium channel 活性化薬) による弛緩反応に対してインドキシル硫酸は影響を及ぼさなかった。以上より、インドキシル硫酸急性暴露により、上腸間膜動脈における内皮依存性弛緩反応が減弱することが明らかとなり、インドキシル硫酸は、内皮由来弛緩因子の中で、内皮由来過分極による反応には影響せず、特にnitric oxideを介する弛緩反応に対して減弱させることが示唆された。

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