【目的】
網膜組織における血行動態特性の理解は緑内障を始めとした網膜疾患の発症機序や病態の進展を解釈する上で重要視されている。レーザースペックル現象を基盤に微小血管の血流分布を2次元マップで示すLaser Speckle Flow Graphy (LSFG)の利用により、網膜組織の内層と外層を栄養する網膜血管や脈絡膜の連続的な血流測定が臨床的に可能となっている。本研究では動物用に開発された眼血流測定装置であるLSFG-rabbitを麻酔ウサギに適用し、網膜血管および脈絡膜の血流に対するアドレナリン受容体刺激薬の作用を比較検討した。
【方法】
白色家兎(16週齢、雄)をイソフルランで吸入麻酔し、実験に用いた。右上腕動脈に血圧測定用の動脈カニューレを留置し、超音波血流計で左総頸動脈の血流量を測定し、総頸動脈血管抵抗を求めた。トロピカミド点眼により左眼を散瞳させた状態でLSFG-rabbitを用い、網膜血管および脈絡膜の血流量をmean blur rate(MBR)を指標に測定した。α受容体作動薬フェニレフリン(1および10μg/kg)またはβ受容体作動薬ドブタミン(3および10μg/kg)を10分間で静脈内持続投与し、各指標の変化を観察した。
【結果】
フェニレフリンの低用量は全ての血行動態指標に有意な変化を与えなかったが、高用量では網膜血管および脈絡膜のMBRを同程度(それぞれ27%および28%)増加させ、このとき総頸動脈血管抵抗の上昇を認めた。総頸動脈血流量は全ての用量で有意な変化を認めなかった。ドブタミンの低用量は全ての血行動態指標に有意な変化を与えなかったが、高用量では網膜血管および脈絡膜のMBRをそれぞれ36%および72%増加させ、このとき総頸動脈血流量は増加傾向を示した。血管抵抗は全ての用量で有意な変化を認めなかった。
【考察】
α受容体作動薬は網膜血管と脈絡膜に対し同等に作用するが、β受容体作動薬は網膜血管に比べて脈絡膜に対しより強く作用することが示された。網膜血管および脈絡膜の上流に位置する総頸動脈の血流がフェニレフリンで変化しなかったことより、網膜血管および脈絡膜は総頸動脈支配領域の他の抵抗血管と比べてフェニレフリンによる血管収縮反応が小さいことが想定された。脈絡膜は網膜血管に比べてβ2受容体刺激に対する感受性が高いと考えられる。

To: 要旨(抄録)