【目的】 終末糖化産物 (AGEs) は、糖尿病や慢性腎臓病などの慢性疾患、あるいは加齢により生体内で蓄積され、様々な細胞へ影響を与えることが知られており、糖尿病性血管合併症の原因の一つであると考えられている。一方、細胞外核酸は、血管緊張調節を担う情報伝達物質として知られている。細胞外核酸のうち、uridine diphosphate (UDP) の血管機能へ及ぼす影響は他の細胞外核酸と比較してエビデンスが少なく、また、UDP の血管機能に対する AGEs の影響は全く明らかではない。そこで、ラット胸部大動脈および頸動脈を用いて検討を行った。【方法】 雄性 Wistar ラットより胸部大動脈および頸動脈を摘出し、脂肪組織や結合組織を丁寧に剥離しリング標本を作製し、オルガンバスへ懸垂した。Vehicle あるいはAGE-BSAを 60 min 処置し、phenylephrine 収縮下におけるUDP、acetylcholine (ACh)、sodium nitroprusside [SNP; nitric oxide (NO) ドナー] の累積反応を検討した。また、頸動脈内皮保持あるいは除去標本におけるUDP誘発収縮反応、各種阻害薬存在下におけるUDP誘発収縮反応について検討した。【結果および考察】 胸部大動脈標本において、UDP は弛緩反応を引き起こしたが、AGE-BSA による影響は認められなかった。一方、頸動脈においては、UDP は弛緩反応でなく収縮反応を引き起こし、その収縮はAGE-BSAで増強傾向にあった。両血管において、AGE-BSA は、ACh および SNP 誘発弛緩反応に影響を及ぼさなかった。頸動脈において、内皮保持、内皮除去いずれの標本においても、対照群と比較してAGE-BSA群において収縮反応の増大が認められた。NO 合成酵素阻害条件下においても、対照群と比較して AGE-BSA 群において収縮反応の増大が認められた。シクロオキシゲナーゼ (COX) 阻害、トロンボキサン合成酵素 (TXS) 阻害、あるいは、トロンボキサン-プロスタノイド (TP) 受容体阻害条件下においては、intact 条件で認められた対照群と AGE-BSA 群における UDP 収縮反応の差が消失した。以上のことから、胸部大動脈と頸動脈において UDP は異なる反応を呈すること、AGE-BSA は、頸動脈において UDP 収縮増大を引き起こし、内皮細胞への影響ではなく、COX/TXS/TP 受容体を介する経路に影響を及ぼし UDP の収縮反応を増大させていることが示唆された。

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