薬物誘発性不整脈の機序は、遅延整流性カリウム電流(IKr)阻害による活動電位延長とQT延長という不整脈が起きやすい状況(substrate)と、活動電位延長下で発生する早期後脱分極による不整脈の開始(trigger)に分けて考えることができる。従来の薬物誘発性不整脈の危険予測は候補薬物のIKr阻害特性、活動電位延長、QT延長などの確認で行われてきたが、多数の擬陽性の実例より薬物開発において過度の安全性が確保され不整脈誘発の危険性が少ない有望な候補薬物も除外されてきた。従来の予測方法が不正確であった理由の一つとして、同程度の活動電位延長でも必ずしも早期後脱分極が起きるとはかぎらないことがある。そのためIKr阻害以外に早期後脱分極の発生に影響を与える要因があると推測される。薬物誘発性不整脈の早期後脱分極はL型カルシウム電流(ICaL)の再活性化によると考えられているが、bepridilやterfenadineといった非選択的IKr阻害薬ではICaL阻害特性を持つにもかかわらず薬物誘発性不整脈誘発の危険性が高い。そこで、我々は3種類のICaL阻害特性を持つ非選択的IKr阻害薬(amiodarone, terfenadine, bepridil)のICaL阻害特性をモデル化し、O'Hara Rudyのヒト心室筋細胞モデルに導入して、早期後脱分極発生の有無の再現と機序を確認した。すると、安全と考えられているamiodarone型のICaL阻害モデルは早期後脱分極の発生を抑制したのに対し、terfenadine型と bepridil型のICaL阻害モデルは早期後脱分極を誘発した。さらに、一般化したICaL阻害モデルを用いて様々な阻害特性が早期後脱分極の発生に対してどのような影響を与えるかを確認したところ、過分極側で阻害が弱くなる電位依存性を持つICaL阻害によりICaLの再活性化が起きやすくなることが確認できた。以上の結果より、IKr阻害特性を持つ薬物でも過分極側で阻害が強くなるICaL阻害特性を持つ場合は活動電位を延長しても安全である可能性が高いと考えられ、新規薬物開発の初期スクリーニングでもICaL阻害の電位依存性を確認すべきと考えられる。

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