【背景】チロシンキナーゼ阻害薬は、さまざまな種類の心血管有害事象を臨床的に誘発することが知られている。しかし、それらを非臨床試験で予測することは依然として困難である。そこで、このような薬物性心血管有害事象をより高感度に予測する新しいプロトコルを開発するために、in vivoおよびin vitroでダサチニブの急性投与下における電気生理学的、心血行動態的および細胞毒性効果を評価した。
【方法】0.03および0.3 mg/kgのダサチニブをハロセン麻酔犬に10分間かけて静脈内投与した。投与間隔は20分とした(n=4)。一方、0.1、0.3および1 μMを、ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)に30分ずつ累積的に作用させた(n=7)。細胞死の誘発率はhiPSC-CMにダサチニブ、DMSO、または1 μMスタウロスポリンを3時間作用させたのち、非固定下で測定した。
【結果】In vivo試験では、低用量および高用量投与により、それぞれのピーク血漿濃度は40±5(0.08)および615±38 ng/mL(1.26 μM)であった。低用量は心拍数を低下させ、左心機能を障害し、心室の有効不応期を延長した。高用量は再分極期間を延長し、低用量後に観察された変化の増強に加えて、出血傾向を誘発し、血漿心筋トロポニンIレベルを増加させたが、心内伝導遅延や心室性不整脈を引き起こさなかった。In vitro試験では、ダサチニブはin vivo試験と同様にhiPSC-CMの再分極時間および不応期を延長したが、細胞死を誘発せず、伝導速度を増加させた。
【考察】ダサチニブの臨床的に観察された主要な心血管有害事象は、今回提案したプロトコルによって定量的に再現できた。本プロトコルは新しいチロシンキナーゼ阻害薬の心毒性を予測するのに有用であると考えられる。

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