【背景・目的】ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞(human iPS cell-derived cardiomyocyte: hiPSC-CM)は、成人の心筋細胞と比較して未熟な性質を持ち、自律拍動能を有する。心臓は発生初期より自律拍動をはじめ生涯止まることなく動き続けるが、作業心筋である心房や心室細胞は分化成熟に伴い静止膜電位が過分極化し自動能が喪失し、洞房結節の自律的拍動が全体を統御するようになる。近年、hiPSC-CM の分化成熟に自律的興奮が重要であることが指摘されているが、その分子機構は明らかではない。そこで、我々は hiPSC-CM に人工的な電圧を印加することにより、心筋の分化成熟に対する電気的刺激の影響について調べることとした。
【方法・結果】市販 hiPSC-CM(iCell-cardiomyocyte, CDIJ Fujifilm)を電気刺激下(3 V / cm、1 ms、1 Hz)で培養し実験に用いた。細胞内ナトリウム濃度([Na+]i)に対する電気刺激の影響を調べるために、Na+指示薬 SBFI を用いてキャリブレーションにより[Na+]i を定量した。また、筋原線維の発達を調べるために、α-actinin 抗体を用いて蛍光免疫染色を行った。
【結果】通常培養条件における hiPSC-CM の [Na+]iは 4.7±0.3 mM (n = 17)であり、この値は、げっ歯類成体心筋における[Na+]i (10-15 mM)よりはるかに低い値であった。1 週間の電気刺激により hiPSC-CM の[Na+]iは、5.7±0.2 mM (n = 23)と有意に上昇した。電気刺激を 4 週間以上に延長したところ、サルコメアの整列が極だってくることが、α-actinin の免疫染色から示された。
【考察】今回、hiPSC-CM に人工的な電気刺激を行うことにより、細胞内ナトリウム濃度の上昇および筋原線維の成熟化に成功した。従って、ペーシング刺激は、生理的特性と形態的特性の両方において、iPS 細胞由来分化心筋細胞の成熟化を促進することが強く示唆された。

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