【背景・目的】心臓は各部位が順序正しく電気的に興奮することで収縮・弛緩が緻密に制御されている。その電気的興奮のきっかけとなるのが洞房結節から発生する活動電位であり、脱分極性電流と再分極性電流の協働により生じている。洞房結節は心筋自動能の中枢として古くから研究ターゲットとされてきたが、各電流成分の薬理学的遮断の効果を活動電位波形の観点から詳細に解析した研究は少ない。本研究では主要な脱分極性電流であるIf及び主要な再分極性電流であるIKの各成分IKr,IKs,IKurに着目し、これらの遮断薬がモルモット洞房結節活動電位波形に与える影響を検討した。【方法】Hartley系モルモット♂(340~500 g)から摘出した右心房標本にガラス微小電極法を適用し、活動電位を取得した。【結果】If遮断薬であるIvabradineは緩徐脱分極相の傾きを選択的に抑制し、拍動数を低下させた。IK遮断薬はいずれも活動電位持続時間を延長させるとともに、拍動数を低下させたが、その効果の大きさはIKr遮断薬 E-4031 (1 μM) > IKs遮断薬 Chromanol 293B (30 μM) > IKur遮断薬 BMS-919373 (0.1  μM) の順であった。E-4031では最大拡張期電位の脱分極方向への移動もみられた。【考察】Ifは緩徐脱分極の時間帯に限局して流れており、Ivabradineは緩徐脱分極以外への作用をほとんど伴わずに徐脈効果を発揮すると考えられる。対してIKは再分極から緩徐脱分極の時間帯にまたがって作用する成分であり、IK遮断薬は複数の機序を介して徐脈効果を発揮すると考えられる。一般に再分極性電流には動物種や心筋の部位による差違が知られているが、モルモット洞房結節における寄与度はIKr > IKs > IKurであることが判明した。その中でもIKr遮断は再分極を抑制するとともに、膜電位変化の時間経過を介して間接的に脱分極性電流を変化させたと考えられる。これらの知見が有効かつ安全な心疾患治療薬の開発の一助になる事を期待する。

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