【目的】緑内障患者において認められる網膜神経節細胞(RGC)傷害には,神経興奮毒性が関与している可能性が考えられている.生体内ではcystathionine γ-lyase(CSE)などによって硫化水素(H2S)が産生されている.当研究室は,硫化水素ナトリウムなどのH2S ドナーが,N-methyl-D-aspartic acid(NMDA)の硝子体内投与により誘発されるRGC傷害を抑制することを報告している.microRNA(miR)は,mRNAの発現量を抑制性に調節しており,その発現変動と神経変性疾患との関係が注目されている.miR-205の標的候補の1つとして,CSEをコードするmRNAが挙げられている.本研究の目的は,マウス網膜におけるmiR-205の発現変動とNMDAの硝子体内投与により誘発されるRGC傷害との関係を検討することである.
【方法】(1)miRの発現変動:7〜8週齢のC57BL/6Jマウスを用いた.片眼にNMDA(40 nmol/eye)を,反対眼にsalineを硝子体内投与した.NMDA投与0,4,8,12および24時間後に眼球を摘出して,網膜からtotal RNAを抽出し,定量的RT-PCRを行った.
(2)miR-205 inhibitorの神経保護作用:7〜8 週齢のICR系雄性マウスを用いた.両眼にmiRNA inhibitor negative control(NC)あるいはmiR-205 inhibitor(いずれも10 pmol/eye)を硝子体内投与し,その18時間後にNMDA(40 nmol/eye)を硝子体内投与した.7日後に網膜を単離し,網膜伸展標本を作製後,Alexa Fluor 488標識抗NeuN抗体を用いてRGCを標識した.共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像を取得し,NeuN陽性細胞の残存率を求めた.
【結果】miR-205の発現量は,NMDA硝子体内投与8時間後において有意に増加した.NMDA硝子体内投与7日後におけるRGCの脱落は,miR-205 inhibitorの前投与により,有意に抑制された.
【考察】マウス網膜におけるグルタミン酸興奮毒性によるRGCの脱落には,miR-205の発現上昇が関与している可能性が示唆された.

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