PM2.5に代表される大気中の微粒子は脳機能に影響を及ぼす可能性がある。PM2.5の中でもナノオーダーの粒径を持つ微粒子は容易に体内へと侵入し、ヒトの脳内でも発見されている。また、疫学的調査により、若齢期から微粒子に曝露されると認知機能の低下やADHD・鬱などの精神疾患の発症の間につながることが示唆されているが、具体的なメカニズムは明らかではない。そこで本研究では脳内に侵入した微粒子が脳機能に影響するメカニズムの解明を目的とし、日本に飛来する代表的なPM2.5である黄砂の主成分「シリカ」の微粒子が脳機能に与える影響を実験的に検証した。まず、空気中のPM2.5の呼吸による吸入を模倣するため、成体マウスに微粒子を経鼻投与した。その脳切片を観察したところ、微粒子は嗅球から海馬まで脳内の広範囲において発見された。さらに、免疫染色によって微粒子は脳内免疫細胞であるマイクログリアをはじめとして、様々な細胞種に取り込まれていることが明らかになった。次に、微粒子への曝露が脳機能に与える影響を検証した。小児期に微粒子を投与された仔マウスに対し居住者・侵入者テストを行ったところ、微粒子処置群はコントロール群に比べ成体期において攻撃性の上昇が観察された。次に、微粒子の取り込みが脳内細胞に与える影響を詳しく調べるため、培養系を用いて検証を行った。まず、頻繁に微粒子の取り込みが観察されたマイクログリアに着目した。マイクログリア初代培養系に微粒子を処置しリアルタイムイメージングを行ったところ、微粒子を貪食して小胞に内包したマイクログリアが、別のマイクログリアへと微粒子を受け渡す様子が観察された。最後に、神経細胞への微粒子曝露の影響を解析するため、神経細胞初代培養系に微粒子を処置した。その結果、微粒子は神経細胞内に取り込まれ、特に細胞体に集積することがわかった。また、微粒子を取り込んだ神経細胞は正常な神経細胞に比べ、短く細い突起を多く持っていた。以上の結果から、微粒子の脳内動態にマイクログリアが関与すること、また、微粒子が神経細胞に取り込まれると、神経形態を変化させることが示された。以上のような微粒子による脳細胞への影響が脳機能を変化させる可能性が考えられる。

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