【目的】Oxytocin(OT)は、母性・社会行動の形成、子宮収縮など幅広い生理作用をもつ。OTニューロンは脳内や脊髄にも投射しており、神経終末からのOT放出により鎮痛作用を示すことが近年明らかとなってきた。ラットを用いたin vivo実験において、OTの鎮痛作用はオピオイド受容体(OR)拮抗薬により部分的に抑制されることから、内因性オピオイドシグナルを介した鎮痛作用機序の存在が示唆されているが、その詳細は明らかとなっていない。そこで本研究では、OTがOR(μOR, δOR, κOR)に対してORアゴニストとして作用するか、またはORアゴニストと異なる部位に結合し、アゴニスト活性を促進するpositive allosteric modulator(PAM)作用を示すかについて各種OR発現細胞を用いて解析を行った。
【方法】ORの活性はμOR, δOR, κORを安定発現させたHEK293細胞を用いてCellKeyTMシステムにより評価した。CellKeyTMシステムは、化合物の活性を電気抵抗値の変化として測定できる活性評価システムである。
【結果】OTがORのアゴニストとして作用を持つか検討するために、各種OR発現HEK293細胞に対してOTを処置したところ、μOR, δORおよびκORに対して直接活性効果は認められなかった。次に、OTがORの内因性アゴニストを増強するか、すなわちPAMとしての作用を有するかを検討したところ、10-6M のOTはμORの内因性アゴニストendomorphin-1によるμOR活性を有意に増強し、さらに、κORの内因性アゴニスト dynorphin AによるκOR活性も有意に増強した。興味深いことに、δORの内因性アゴニスト Met-およびLeu-enkephalinによるδOR活性に対しては、OTはほとんど影響を与えなかった。
【まとめ】以上の結果より、OTはORアゴニストとしては作用せず、μORおよびκORのPAMとしてORの活性を上昇させることが考えられた。本研究より、OTはμORおよびκORを介する鎮痛作用を増強することにより、新規鎮痛剤としてdrug repositioningできる可能性が示された。現在、OTのPAM作用の発現に重要なアミノ酸配列ならびにOTの立体構造の同定を目指し実験をすすめている。

To: 要旨(抄録)